レイチェルの腕試し

 レイチェルはその後もアレックスとキティと共に、夜の繁華街の世直しをして回った。


 そこでレイチェルは決定的な事を痛感した。レイチェルは運動神経がとてつもなく悪い、という事だ。


 アレックスは類まれな運動神経と、あらゆる格闘技で鍛え上げた身体で、悪者どもを素手で倒していた。


 キティは小さな子供であるにもかかわらず、柔軟性にとんだ身体でアクロバットを駆使して相手を倒していた。


 レイチェルはというと、何度もアレックスと手合わせしているというのに、一向に体術が上達しなかった。


 アレックスとキティは口にこそ出さないが、レイチェルは格闘技に向いていないと思っているだろう。


 そこでアレックスが考え出した苦肉の策が、レイチェルが覚醒した能力を使って戦うという事だ。


 アレックスいわく、レイチェルの能力は手を触れずに物体を動かす念動力というものらしい。念動力を戦闘に応用しようというのだ。


 関節技の中に、相手の小手を取って返す技がある。レイチェルはこの技をいくら練習しても、体勢が悪くタイミングを合わす事ができなかった。


 アレックスも小さなキティでさえも、見事な体さばきで相手の小手を返して吹っ飛ばしているというのに。


 レイチェルは自分に掴みかかろうとする男の右手を取ると、男の手に対して念動力を発動させた。すると男は右手を支点にしてクルンと回転して地面に叩きつけられた。


「きぁあ!やった!成功だわ」


 レイチェルはおもわず大声をあげた。初めて相手に対しての攻撃が成功したのだ。


 今夜の相手は十人の大人数で、どうやらストリートギャングを気取った連中のようだ。


 アレックスは鋭い格闘技で男たちをなぎ倒し、キティはクルクルとバック転や側転をし、相手を近づけさせない。すきを見ては、腰にしのばせているナイフを逆手に持って、男たちを攻撃していた。


 レイチェルはアレックスとキティの美しい戦いを、ぼうっと見ていた。


「レイチェル!」


 キティの鋭い声にハッとする。今は戦闘のまっただなかだ。レイチェルが振り向くと、鉄パイプを振り上げた男がいた。レイチェルはとっさに自身の身体に念動力をかけた。


 レイチェルの身体はフワリと浮き上がり、後方に一回転する。キティのアクロバットに比べると何ともゆっくりだが、身を守る事には成功した。鉄パイプを持った男は、レイチェルが風船のように逃げた事を驚きの顔で見ていた。


 レイチェルが男の鉄パイプに念動力をかけると、男は自分の頭に鉄パイプを振り下ろして倒れてしまった。


 レイチェルは大きくガッツポーズをした。


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る