殺人鬼から逃げ切ったら超能力が目覚めた件

能力の訓練４

　アレックスの言う、度胸試しというのは、治安の悪い場所に行って、わざとガラの悪い男たちを怒らせケンカをする事なのだ。

　レイチェルはアレックスとキティがしてくれた訓練の成果を見せなければいけないのだ。

　だがレイチェルはその場から一歩も動けなかった。二人の男はキティに掴みかかろうとするが、キティは足げにした男の腹を蹴ってジャンプすると、クルリと一回転して地面に着地し、ナイフを逆手に持つと、身体を低くして二人の男たちに突進していった。二人の男たちは小さなキティを捕まえようと、手を伸ばすが、キティは男たちの手首の内側を逆手に持ったナイフでスッパリと切った。

　男たちはギャァッと悲鳴をあげて切られた手首を押さえてうずくまる。握っている手首からはドボドボと血が流れ落ちている。

　レイチェルはキティの山猫のようにしゅんびんな攻撃をぼう然と見ていた。

「このアマ！クソガキを止めろ！」

　ぼんやりしていたレイチェルの目の前に、怒りに顔を真っ赤にした男が立っていた。キティには手が出せないとふんだのか、この場で一番弱そうなレイチェルに目をつけたようだ。

　レイチェルはアレックスとキティの期待通り、この男を倒さなければいけない。だがレイチェルは動く事ができなかった。

　アレックスとキティの特訓は、レイチェルにとってスポーツの延長のようなものだった。射撃訓練、体術、格闘技、能力の訓練。

　アレックスたちはレイチェルのためを思って指導してくれた。レイチェルは彼女たちを師とあおぎ訓練にはげんできた。

　アレックスたちのレイチェルに対する思いは、優しさと友情だ。どんなに厳しい訓練であっても、レイチェルは耐える事ができた。

　だが今目の前でこぶしを振り上げている男は、レイチェルに対して怒りをあらわにしている。

　純粋な怒りと暴力。レイチェルは男の感情が怖かった。男のこぶしが今にもレイチェルに襲いかかろうとした瞬間、レイチェルは激しく拒絶した。

「いや！来ないで！」

　レイチェルの目の前にいた男は、見えない暴風に吹っ飛ばされたように仰向けに倒れた。

　アレックスをどう喝していた男は、吹っ飛ばされた仲間に気づき、レイチェルにこぶしを振り上げてかけてきた。その表情の恐ろしさを目の当たりにして、レイチェルは完全にパニックにおちいってしまった。

「いや！いや！もういや！」

　レイチェルは両手で顔をおおい、しゃがみ込んで叫び続けた。どれほど時間が経ったのだろうか。レイチェルの肩をポンと叩く者がいた。

　レイチェルが恐々顔をあげると、苦笑いのアレックスが立っていた。

「もう終わったわよ？レイチェル」

　アレックスはレイチェルの手を取って立ち上がらせてくれた。レイチェルは何が何だかわからずぼんやりと聞いた。

「あの男たちは？」

「レイチェルが皆吹っ飛ばしちゃったわ。ついでに、レイチェルに声をかけようとしたキティもね？」

「キティ！」

　レイチェルは慌てて小さな友人を探した。辺りには倒れて気を失っている五人の男たち。その奥に小さなキティが倒れていた。レイチェルは駆け寄ってキティの身体を抱き上げた。

「キティ！キティ！大丈夫？！ごめんね！」

　キティがゆっくりと目を開けてぼやくように言った。

「ひどいよぉ、レイチェル。もう終わったよって声かけようとしたら、あたしまで吹っ飛ばすんだもの」

「本当にごめんね。どこか痛いところない？」

「うん。自分で治癒させたからもう平気」

　レイチェルとキティの横に立ったアレックスがキティに言った。

「さぁ、キティ。このクズ男どもの手当てをお願い」

　キティはこくりとうなずくと、倒れた五人の男たちのケガをある程度治してやった。