能力の訓練

 レイチェルが後頭部を押さえてうめいていると、キティが近寄って言った。


「レイチェル、大丈夫?」

「う、うん。拳銃って、撃つとこんなに衝撃があるんだね?」

「うん。だから撃った後の衝撃を手首を使って逃すの。銃の重みで元の姿勢に戻る感じでやってみて?」


 レイチェルはキティに姿勢を直してもらいながら数発撃ったが、手がビリビリしてそれ以上撃つ事ができなかった。レイチェルがこれ以上無理だと判断したキティは、レイチェルをしばらく休ませてくれた。


 レイチェルがその場でへたり込んでいると、アレックスがやって来た。アレックスは車の中で仕事をしていたのだ。彼女はプログラマーで、パソコン一つあればどこでも仕事ができるらしい。アレックスは笑顔でレイチェルに聞いた。


「調子はどう?レイチェル」

「手が痺れて、まったく動かせないわ」

「皆最初はそんなものよ?じゃあ、次はレイチェルの能力の訓練にうつりましょう」


 レイチェルは身体はクタクタだったが、アレックスとキティかレイチェルの特訓のために時間をさいてくれているのが痛いほどわかるので、レイチェルは立ち上がってアレックスに頭を下げた。


 アレックスの側に、それまでどこかに行っていたキティが戻って来た。手にはたくさんの小石が乗っている。アレックスはキティの頭を撫でて、彼女の手のひらから小石を一つ取ると、何のためらいもなくレイチェルの顔面にぶつけた。


 アレックスの動作をぼんやり見ていたレイチェルは小石が当たった痛みでもん絶しながら叫んだ。


「ひどいわよ!アレックス!いきなり石を投げるなんて!」

「何言ってるの?レイチェル。羊男が、これから襲いに行きますから準備していてくださいとでも言うと思ってるの?やっぱり小石では危機感が足りないわね?」


 アレックスはそう言うと手にナイフを出現させた。そのままレイチェルに向けてナイフを投げる。レイチェルの背中にゾクリと背筋の寒くなる感覚がかけめぐった。これは恐怖だ。


 アレックスの放ったナイフは、レイチェルの顔ぎりぎりで止まったまま、空中で浮いている。


 レイチェルは危機を脱してホッと息をつこうとすると、すかさずアレックスのゲキが飛ぶ。


「レイチェル!意識を切らせない!能力を使っている感覚を覚えるの!」

 

 レイチェルはアレックスの言葉にはっとする。レイチェルは今、現実とは思えない現象を起こしているのだ。


 自分に当たりそうになったナイフを空中で止めているのだ。アレックスは冷静な言葉で続ける。


「レイチェル。そのナイフを操って、私に攻撃しなさい」

「そんな事、できない!」

「できないというのは、自由に動かせないという事?それとも私を傷つけたくないという事?」

「どっちもよ!」


 レイチェルの悲鳴のような返事に、アレックスは厳しい顔を作った。アレックスの手の中には新たなナイフが握られていた。アレックスは敵をいかくするような低い声で言った。


「レイチェル。貴女にこのナイフを投げるわ?今貴女が浮かせているナイフの他に、もう一本ナイフを止める事はできる?できるならそうしなさい。だけど同時に二本のナイフを浮かせる事ができないなら、今浮かせているナイフで私の手に刺して、私の攻撃に対処しなさい」


 アレックスは言うだけ言い放つと、手に持っているナイフを振りかぶった。レイチェルは激しく混乱していた。目の前のナイフを落としてはいけない。だがこれからアレックスが投げるナイフを止める事ができるかもわからない。


 レイチェルが自分の身を守るためには、目の前に浮いているナイフでアレックスを攻撃しなければいけない。


 レイチェルが悩み続けている間に、アレックスは投球のフォームのように滑らかな動作でナイフを投げようとした。


 


 


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