特訓
レイチェルはアレックスたちと一緒にオレンジを食べた。美味しいと感じた。
食べ物を食べるという事は生きるという事。美味しいと感じるという事は、生きている喜びを感じるという事。
しばらくして、レイチェルはアレックスにともなわれて警察署に向かった。一人でも大丈夫だと言ったのだが、アレックスが納得しなかった。
レイチェルはアレックスの車で警察署に行き、昨日と同じジムという刑事の事情聴取を受けた。
刑事はレイチェルの顔を見て、ホッと息をはいた。きっとレイチェルは昨日よりかはまともな顔をしているのだろう。
レイチェルがアレックスの家で厄介になっている間に、警察の捜査はだいぶ進んだようだ。
レイチェルの言う、巨大な大男の乱入という話しにも耳を傾けてくれている。殺された人間たちの傷あとから、犯人の身長がわかるのだという。
室内に残されていた男の大きな靴跡も、レイチェルの証言を裏づけた。レイチェルは最初から警察に疑われる事はなかった。レイチェルの身体に付着した血液がどこにもなかったからだろう。
レイチェルは恐怖のあまり、羊男から逃げ回り、親友のなきがらにも決して近づかなかった。そのため警察は、レイチェルは殺人鬼から逃げのびた運のいい少女だとしか認識していないのだろう。
レイチェルがぐったりしながら取り調べ室を出ると、アレックスが待っていてくれた。アレックスはレイチェルを連れてアパートに戻ると、キティも乗せてある場所に向かった。キティはいつもの事らしく、携帯電話を見ながらじっとしている。
レイチェルたちは人気のない森にやって来た。アレックスは仁王立ちになってレイチェルに言った。
「レイチェル。疲れてはいると思うけど、羊男は待ってはくれない。これから貴女の特訓を開始するわ」
「よ、よろしくお願いします!」
レイチェルはアレックスに向かって深々と頭をさげた。アレックスはうなずいてから、手にハンドガンを出現させた。
アレックスはしゃがみ込んで、枝で地面に絵を描いているキティを呼んだ。
「キティ。レイチェルに拳銃の使い方を教えてあげて?」
「うん!」
アレックスとキティのやり取りに、レイチェルはポカンと口を開けてから言った。
「ちょ、ちょっと待って、アレックス。小さなキティに銃を持たせるなんて、」
「あら、キティは立派な戦士よ?レイチェル、貴女はキティの外見にまどわされているわ?それなら理解できるように、レイチェル、キティに殴りかかって?」
「はぁ?!そんな事できるわけないでしょ?」
レイチェルは怒りを覚えた。小さなキティに暴力をふるうなんて考えられない。レイチェルが顔をしかめていると、キティがクリクリとした大きな目でレイチェルを見上げて言った。
「大丈夫だよ?レイチェル。あたしレイチェルよりも強いから」
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