レイチェルが目を覚ますと、ひかれたカーテンから日の光がもれていた。一体どのくらい寝てしまったのだろう。


 レイチェルは携帯電話を見ようとして、自分の荷物は昨日リビングに置きっぱなしにしていた事を思い出した。


 昨日は目が壊れるくらい泣いたから、おそらくまぶたがぱんぱんに腫れているだろうと思ったが、そこまでまぶたの重さを感じなかった。


 枕の横に目を向けると、濡れたタオルが落ちていた。どうやらレイチェルが眠った後、アレックスがレイチェルの目元に濡れたタオルを置いて冷やしてくれたのだろう。


 レイチェルがタオルを手に持ってリビングに行くと、ソファに座っているアレックスとキティが朝のあいさつをしてくれた。


「おはよう、レイチェル」

「おはよぉ!」

「おはよう。アレックス、キティ」


 レイチェルがあいさつを返すと、アレックスは気づかわしげな表情で言った。


「レイチェル、オートミールとコーンフレークがあるけど、食べられそう?」


 レイチェルは苦笑しながら首を振った。レイチェルは事件の後、ほとんど固形物を口にしていない。かろうじてとれているのは水分だけだ。


 自分でもまずいと思うのだが、どうしても食べる気持ちになれないのだ。


 それまでみけんにしわをよせなが、ミルクを入れたコーンフレークの皿をスプーンでかき混ぜていたキティが、少しお姉さんぶった表情で言った。


「あのね、アレックス。あたし考えたんだけど、」

「なぁに?キティ」

「チョコチップの入ったコーンフレークなら、レイチェル食べれるんじゃないかしら?ねぇ、レイチェル!」


 キティはアレックスから視線をレイチェルに向けると、はじけるような笑顔で肯定を求めた。キティの勢いに押され、レイチェルがあいまいにうなずいてしまうと、アレックスは顔をしかめて、キティを甘やかさないでと苦言を言った。


 アレックスはソファから立ち上がってキッチンに向かいながら言った。


「じゃあ、オレンジはどう?」

「ええ、それなら何とか。私がやるわ、アレックス」


 レイチェルは何でもかんでもアレックスにやってもらってしまっている。自分でできる事は自分でやらなければ。


 レイチェルがキッチンについて行くと、アレックスが説明してくれた。シンプルなキッチンには、物がそれほどない。アレックスはナイフとまな板とオレンジを出しながら言った。


「キッチンにあるものは好きに使って?といってもそんなに物もないし、後半月でここを離れるしね」


 レイチェルはうなずいてオレンジを食べやすい大きさにカットした。アレックスとキティも食べるだろうと思い、多めに切る。


 オレンジのさわやかな香りがキッチンに広がった。レイチェルは好ましいと思った。それまで食べ物を食べようとすると、胃がむかむかして不快感しか湧かなかったのだ。


 これなら食べれるかもしれない。それはオレンジが、というよりアレックスとキティがいるからだという事にレイチェルは気づいていた。

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