アレックスの怒り8

 アレックスの斧を振り下ろした衝撃で、ライオン男の頭部はコロコロとボールのように転がった。


 アレックスはライオン男を倒したのだ。アレックスはつぶやくように口を開いた。


「ジョン、サラ、ニック。かたきは取ったよ」


 アレックスはきびすをかえし、アパートに帰った。


 翌朝早く、アレックスはライオン男の死体を確認しに行った。だがそこにはライオン男はいなかった。もうすでに警察が死体を収容した後なのだろうか。アレックスが不安にかられながら地方紙の夕刊で確認すると、全身を銃で撃たれ、首を斬られた残虐な死体の記事は出ていなかった。


 アレックスはかみなりに打たれたような衝撃の後に痛感した。ライオン男はまだ生きているのだ。


 

 レイチェルは息をするのを忘れたようにアレックスの話しに聴きいっていた。アレックスが抱っこしているキティはスースーと寝息を立てていた。


 無理もないだろう。時間は深夜十二時を過ぎている。アレックスはキティを寝かしつけるためなのか、まるで童話を話すように穏やかな口調だった。


 だが話す内容は何ともおぞましい血塗られた内容だった。アレックスが話しを一区切り終えると、沈黙がおとずれた。レイチェルはカラカラに乾いてしまった口の中をうるおすために、冷めたココアを一口飲んでから口を開いた。


「ライオン男は、まだ生きているの?」

「ええ、それから何度も襲われたわ。私が斧ではねた首も、拳銃で撃ち抜いた右手も治っていたけど、ライオン男だった」


 レイチェルはアレックスの話しを聞いても、どうしても疑念がぬぐえなかった。アレックスの話しを聞いていると、一度もライオン男の素顔を確認していない。一度目は斧で顔がわからなくなるほど傷つけてしまい、二度目は斧で傷つけた後首をはねたが素顔の確認はしていない。


 もしかするとライオン男の中身は入れ替わっているのではないか。レイチェルの疑問が表情に出ていたのだろう。アレックスはクスリと笑った。


「そうね。私は一度もライオン男の素顔を見ていない。だけどね、私にはわかるの。その直感はキティと出会って確信に変わったわ」


 キティは治癒の能力を持っていて、チェンソーで真っ二つにされたのに生き返ったのだ。レイチェルが黙り込んでいると、アレックスは言葉を続けた。


「レイチェルも羊男に会えばわかるわ。それまでに貴女も戦えるようにならないとね」


 その通りだ。アレックスの話しを聞けば、アレックスとキティは何度もライオン男とニワトリ男の襲撃を受けているのだ。


 レイチェルはアレックスのように、一人でも羊男を撃退できるようにならなければいけないのだ。

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