アレックスの怒り5
アレックスはのどがかれるまで泣いてから、起き上がりリビング内を見つめた。大切な恋人と友人の遺体に、殺人鬼の死体。
やわらかなライトに照らされているそれらはとても現実とは思えなかった。ほんの数時間前の楽しかった記憶が、もう何十年も昔の出来事のようだった。
アレックスは無言で立ち上がると、サラの胴体を探しに行った。サラの胴体はすぐに見つかった。彼女はニックの車の側で仰向けに倒れていた。手には木の棒が握られていた。
きっとアレックスに加勢しようとロッジに戻ってきたのだろう。
「サラったら、怖がりのくせに」
アレックスは少し微笑んでから涙を流した。アレックスがサラを命がけで助けたいと考えたように、サラもアレックスを助けようとしてくれたのだ。サラの気持ちが嬉しくて悲しかった。
アレックスはサラの胴体を抱き上げて首とつなげるように置いた。ジョンたちを殺人鬼と一緒に部屋に残していくのは嫌だったが、ニメートール近いライオン男をアレックスが運ぶ事は難しかった。
アレックスはニックの車で警察まで行き、警察と共にロッジまで戻って来た。
そこでとんでもない事が起きた。アレックスが殺したはずのライオン男の死体が無くなっていたのだ。ライオン男がジョンたちの命を奪った、ロッジに置いてあった斧も、アレックスが手に握っていた斧も無くなっていた。
アレックスは気が触れたように叫び、ライオン男が犯人なのだと主張した。そんなアレックスを、警察官はうろんな目で見つめていた。
アレックスは警察に拘束されてしまった。三人を惨殺した容疑者として。事実アレックスは一番怪しかった。血まみれの姿で警察にやって来て、殺人鬼が友達三人を殺したと叫びたてたのだ。
殺人鬼は自分が殺したと言えば、誰が見てもアレックスをいぶかしむだろう。冷静に考えればわかりそうなものだが、その時のアレックスは冷静ではなかった。
警察官はアレックスを犯人と決めつけ、しつような取り調べを続けた。アレックスは否定する事しかできなかった。
これから将来を共に生きようと約束した恋人と、ずっと友達でいようと誓った親友を二人も失った上に、彼らを殺した犯人されてしまっては目も当てられない。アレックスはひたすら耐えた。
アレックスの窮地を救ったのは、他でもないジョンだった。ジョンの持っていた携帯電話に、動画が残されていたのだ。
動画は、ライオン男が窓ガラスをわってリビングに入ってくるところから始まった。ニックは携帯電話を耳にあて、しきりにライオン男に、これから警察に電話をするぞと叫んでいる。
ジョンはライオン男が逃げた時のために動画を撮ったのだろう。動画にはニックの最期も映されていた。
リビング内に侵入したライオン男は、まき割り小屋から持ってきた斧を振り上げた。ニックは驚いて、ライオン男に背中を向けて逃げようとした。
ライオン男は何のちゅうちょもなく、ニックの背中に斧を振り下ろした。ジョンが悲痛そうにニックの名前を呼ぶ。
ジョンは驚いて手に持った携帯電話を落としてしまったのだろう。画面は暗くなり、ジョンの叫ぶ声だけが聞こえた。
アレックスとサラが聞いたジョンの断末魔だった。アレックスは映像を見ながら耳をふさいでいた。
アレックスは釈放された。トボトボと警察署を出て歩きながら、確信した。ライオン男は生きている。
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