アレックスの怒り4

 殺してやる。殺してやる。私の大切な人たちの命を奪った貴様に代償をはらわせてやる。


 アレックスはライオン男を殺す武器を熱望した。すきを見てライオン男の斧を奪えないだろうか。


 アレックスはテーブルの周りを見回して、飲み干して転がしてある酒びんを見つけた。酒びんは三本あった。アレックスは四つんばいになり、ゆっくりと酒びんの転がっている場所まで移動すると、すくっとたち上がり、手に持った酒びんをライオン男に向かって投げた。


 アレックスの投げた酒びんは見事ライオン男の顔に命中した。アレックスはもう一本の酒びんを持ち上げると咆哮をあげながらライオン男に殴りかかった。


 ライオン男はサラの頭部を持った左手を振り回して、アレックスを振り払った。その威力に、アレックスは吹っ飛ばされ、壁に叩きつけられた。


 アレックスは全身の痛みにうめいた。ライオン男はゆっくりとアレックスに近づいてきた。


 悔しい、悔しい。あの斧が自分の手にあれば。一矢報いてやるのに。アレックスが涙を流しながら悔しがっていると、右手の違和感に気づいた。


 アレックスが自身の右手を見ると、斧を握っていた。昼間まき割り小屋で暖炉用のまきを切った時の斧だ。


 ライオン男が持っている斧と同じ。アレックスはなぜ自分が突然斧を手にしているのか疑問には感じなかった。


 ライオン男と戦える武器を手にできた事の喜びの方が大きかったからだ。アレックスは両手で斧を構えると、オウッと声をあげてライオン男に斬りかかった。ライオン男はアレックスの頭をかち割ろうと自分の斧を振り上げた。


 今だ。アレックスは飛び出すようにライオン男に向かって走り、身体を最大限に屈め、野球のバットのように斧をフルスイングした。


 斧はライオン男の太ももに深々と刺さった。アレックスの手に、硬いものが当たった感触を感じた。きっと斧の刃が大腿骨まで達しているのだろう。


 ライオン男は足を攻撃され、バランスを崩して仰向けに倒れた。アレックスはライオン男の太ももに足をかけて、勢いよく斧を引き抜いた。


 アレックスの身体に返り血が飛び散る。アレックスは顔色一つ変えずにライオン男の顔に斧を振り下ろした。アレックスは何度も何度も斧を振り下ろすのをやめなかった。


 手がビリビリと震えるくらい疲労を感じてから、アレックスは荒い息を吐いた。


 目の前のライオン男は、顔をぐちゃぐちゃにして絶命していた。アレックスは手に持った斧を無造作に投げ捨てると、ライオン男の左手から丁寧にサラの髪を離させた。


 アレックスはサラの目を閉じさせ、髪を撫でた。涙がボロボロとこぼれた。


「ごめんね、サラ。守れなくって、守りたかったの。貴女だけは、」


 このままではサラが可哀想だ。早く胴体を探さなければ。アレックスは振り返って恋人と親友を見つめた。


 ニックの側までよると、ざんげの言葉をのべた。


「ニック、ごめんなさい。貴方の大切なサラを守れなかった」


 アレックスは視線をジョンにうつし、ジッと見つめた。


「ジョン。貴方が死んでしまったら、私はどうしたらいいの?」


 アレックスはジョンに最後のキスをしてから、とりすがって泣き出した。



 


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