殺人鬼から逃げ切ったら超能力が目覚めた件

アレックスの怒り３

　アレックスは辺りを確認しながらロッジに戻った。ライオン男はロッジの周りを確認して、アレックスたちがいない事に気づき、探し回っているのだろう。

　サラにはああ言ったものの、サラは怖がりで優しい性格の女の子だ。アレックスの事を心配してずっと森で待っている可能性も捨てきれない。

　ここは何が何でもアレックスが車のカギを持って、サラと逃げなければいけない。

　アレックスはゆっくりとロッジの周りを確認した。物音一つしない。アレックスは窓ガラスが割られたリビングの部屋の外に立つと、室内を確認した。窓の側にはニックがうつ伏せに倒れている。

　ピクリとも動かない。おそらく死んでしまっているのだろう。アレックスは意を決して、ガラス窓を注意深く開け、リビングの中に入った。

　ニックの背中には、おので斬られたであろう大きな傷があった。アレックスはニックにおおいかぶさるようにして、ポケットからキーケースを抜き取り自分のポケットに入れる。

　アレックスはニックの耳元に小さな声でつぶやいた。

「安心して、ニック。サラは必ず守るわ」

　アレックスは視線をひょいと前に向けた。そこには愛しいジョンがいた。早く車のカギを持ってサラのところに行かなければいけないのに。

　アレックスは引き寄せられるようにジョンの側に近づいた。ジョンは驚いたような顔をしていた。

　アレックスは大の字に倒れたジョンの手を握った。まだ温かい。死んでから間もないのだ。

　アレックスの頬を涙がつたった。泣いてはいけない。泣くのは今ではない。今はサラと無事に逃げる事が先決だ。

　アレックスが決心して窓に戻ろうとした時、ギシギシと誰かの足音が近づいて来た。

　奴が来てしまったのだ。アレックスの最愛の恋人と親友を殺した殺人鬼が。アレックスは悲鳴を何とか飲み込んで、ライオン男に見えないようにソファの陰に隠れた。

　ライオン男はリビングの中を調べているようだ。きっとアレックスたちを探しているのだろう。このままでは見つかってしまう。何とかすきを見てリビングから脱出しなければ。

　アレックスはソファの陰からライオン男の行動を確認しようとした。そこでライオン男が何かを手にぶら下げているのが見えた。

　右手にはジョンたちを殺害した斧。アレックスは何だろうと思い、目をこらして気がついた。

　それは親友のサラの頭部だったのだ。サラは恐怖に顔をゆがめていた。ライオン男は彼女の長い髪を持ってぶら下げていたのだ。

　その時アレックスの中の何かが弾けた。それまでアレックスが抱いていた恐怖心は一瞬にして霧散し、激しい怒りが爆発した。