アレックスの怒り2

「キャァァ!」


 サラの半狂乱の悲鳴に、ライオン男はアレックスたちに向きなおった。まずい。アレックスはとっさにサラの手を掴んで、自分たちの部屋に引き返した。


 アレックスはすぐさまカギをかけると、ベッドの横に備え付けてあるチェストを動かしてドアへと移動させた。


 わんわんと泣き叫んでいるサラに怒鳴って助力を頼む。


「サラ!早くチェストを動かして!バリケードを作るのよ!」

「ひっく、ひっく。ねぇ、アレックス。ニックは?ニックはどうしたのかしら」


 サラは最愛の恋人の行方が気になっているようだ。アレックスたちの視界からは、ニックがどこにいるのかわからなかったが、おそらくジョンと同じ運命をたどったという事は想像にかたくない。


 アレックスはグッと下くちびる噛んでから、厳しい声で言った。


「ニックはきっとどこかに隠れてる!だから私たちは早くここを抜け出して、救助を呼びに行かなければいけないの!」


 サラだとてニックがもうこの世にいない事は予想しているだろう。だが到底受け入れられる状態ではない。サラは鼻をすすりながらアレックスに手を貸してチェストを移動させた。その直後、ガンッという音と共に、ドアに斧が打ち込まれた。


「キャァァ!」

「ひっ!」


 サラは甲高い悲鳴をあげ、アレックスは短く悲鳴をあげた。ライオン男はアレックスたちも殺そうとやって来たのだ。


 チェストのバリケードでは長くは持たないだろう。アレックスは窓に駆け寄ると、カギを開けてサラを呼んだ。


 サラはかんまんな動きでやってくる。アレックスはサラを抱き上げると窓から外に押し出した。ここは一階なので、窓から地面の距離は近い。


 サラが外に出たのを確認すると、アレックスも窓のさんに足をかけて外に飛び降りた。


 アレックスは再びサラの手を掴むと真っ暗な夜の外を走り出した。目指すはニックの車だ。早くこのロッジから距離を取らなければ。そこでアレックスはハッとした。


 車のカギは、ニックのポケットの中にあるキーケースだ。アレックスは混乱しそうになる頭をしったして考えた。


 ライオン男はきっと、壊したドアの先から、アレックスたちが窓から外に逃げ出した事を確認しただろう。


 車で逃げようと考えるのもお見通しなはずだ。アレックスはサラと連れ立って森まで駆けた。大きな木の後ろに隠れ、サラの呼吸が整うのを待ってから口を開いた。


「ねぇ、サラ。よく聞いて。私はこれからニックのポケットから車のカギを取りに行ってくる。もし十五分経っても私が戻って来なかったら、サラはこの森を抜けて、車道をたどって助けを呼びに行って!」

「嫌よ!私もアレックスと一緒にいる」


 サラは泣きはらした顔でアレックスにすがった。アレックスだとて親友のサラと別行動をとる事は心細い。


 だが最愛の恋人であるジョンを失ってしまった今、アレックスには親友のサラしかいないのだ。アレックスはどんな事をしてもサラを守らなければいけない。たとえアレックスが命を落としたとしても。


 アレックスは優しい笑顔でサラに言った。


「ねぇ、サラ。ニックとジョンはケガをしている。だから一緒に連れて逃げられないの。誰かが助けを呼びにいかなければいけないわ。大丈夫、私が運動神経がいいって事、サラは知ってるでしょ?私はあんなおかしな奴なんかに負けない。だから、いいわね?十五分経ったら一人で助けを呼びに行くのよ?」


 サラは夜目にも青ざめた顔でうなずいた。アレックスは微笑んでサラの頬に親愛のキスをした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る