殺人鬼との戦い
「戦い?」
レイチェルは先ほど目の当たりにしたショッキングな光景から回復できず、ぼんやりとした声でアレックスに質問した。アレックスはキティにタオルを持ってきてと指示している。
キティは血だらけの手を流しで洗ってから、真っ白なタオルを持ってくる。アレックスはテーブルの血だまりを丁寧に拭きながら答えた。
「レイチェル。貴女、あの殺人鬼が本当に死んだと思ってる?」
「えっ?だって崖から海に落ちたのよ?生きてるわけない」
「普通の人間ならね。だけど奴らは違う」
「・・・。奴ら?」
奴らという事は、あの羊男だけではなく他にも恐ろしい殺人鬼はいるのだろうか。レイチェルの不安が顔に出ていたのだろう。アレックスはレイチェルに振り向いて言った。
「レイチェルを襲った殺人鬼は羊のマスクをかぶっていたんでしょ?私の時にはライオン。キティの時にはニワトリのマスクをかぶっていた」
「つまり、バケモノみたいな殺人鬼が少なくとも三人はいるって事?」
「ええ。私はそう考えている。レイチェルを襲った殺人鬼と、私とキティを襲った殺人鬼が同一人物で一人なのかもしれない。だけど、そうじゃないかもしれない。そうそう、レイチェル。貴女はこれから私たちと暮らしてもらうわ」
「えっ?!私学校の寮に住んでいるのよ?!」
アレックスの突然の提案に、レイチェルは大声をあげた。夏休みが終わればレイチェルは学生に戻らなければいけない。アレックスはレイチェルを見ないで言葉を続けた。
「レイチェルが寮にいると、周りの人たちに被害がおよぶわよ?」
「被害って?」
「羊男がレイチェルを殺しにやってくるからよ」
レイチェルはギクリと身体をこわばらせた。あの恐ろしい殺人鬼が、再びレイチェルの前に現れる。考えただけでもめまいを起こしそうだ。
アレックスはテーブルが綺麗になったのを確認してからレイチェルに向き直って言った。
「だからレイチェル。貴女は戦えるようにならなきゃダメよ」
「戦う。私が羊男と」
「ええ、レイチェル。これからこのマグカップを空中に浮かせてみて?」
「そんな事できないわ!」
「できなくてもやるの!さもないと今度こそ羊男に殺されるわよ?」
レイチェルはしぶしぶアレックスの言葉にしたがい、イスにこしかけてテーブルの上に乗っているココアのマグカップを見つめた。一口だけ飲んだココアはもう冷めている。せっかくアレックスが淹れてくれたのに。
レイチェルの思考はどんどん別な方向に向かっていく。そもそもマグカップを手を使わずに空中に浮かせるなど、できるわけない。レイチェルはこんな事を真剣にやっている自分がバカバカしくなって、どんどん集中力が落ちてきた。
アレックスはイスに座りながら、横目でレイチェルを見ている。手持ちぶさたなのか、手にはナイフを出現させ、手の中でクルクルと回してもてあそんでいる。
レイチェルは目のはしで、アレックスの動作を見ていた。突然アレックスが右手を振り上げ、レイチェルに向かってるナイフを投げた。
このままでは、レイチェルの顔にナイフが刺さる。そう思った瞬間、レイチェルは心の中で叫んだ。
止まれ。ナイフはレイチェルの目の前で停止し、フワフワと空中に浮いている。レイチェルの身体中から汗が吹き出した。
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