レイチェルの覚醒
レイチェルは落ち着きを取り戻してから、アレックスとキティに、羊男から助かった不思議な現象の事を話した。
アレックスとキティは、レイチェルの荒唐無稽な話しをいぶかしがると思ったのに、二人は真剣な顔で聞いていた。
アレックスはレイチェルの目を見ながら低い声で言った。
「どうやらレイチェルの力は、手を使わずに物体を動かせるようね？」
「手を使わずに？物体を動かす？嫌だ、コミックやアニメの話し？」
アレックスが真面目な顔で冗談を言ったので、レイチェルは笑ってしまった。
「レイチェル。落ち着いて聞いて？羊男を倒したのは貴女自身なの」
「そんな、私が置き時計を倒したり、岩を動かしたりしたっていうの。そんな事あるわけないわ」
「じゃあ、どういう事だと思っているの？」
アレックスの質問にレイチェルは黙ってしまった。レイチェルだとて今持ってあの時の出来事は理解できない現象なのだ。
アレックスはため息をついてからレイチェルに、話すより見せた方が早いわねと呟いてから、レイチェルの目の前に手を差し出した。
「レイチェル、これは手品でも何でもないの。よく見ていて」
アレックスの真剣な声にレイチェルはうなずいて、アレックスの白魚のような手を見つめた。すると突然アレックスの手に大きなナイフが握られていた。
「わっ！」
レイチェルは驚いて声をあげた。これはテレビで見るマジックだ。だがアレックスはハンカチを手にかけたりなどしなかった。レイチェルがジッと見つめているその場でナイフを出現させたのだ。
「私の力は武器を作り出すの」
「アレックスの、力？」
「ええ。私よりもキティの方がもっとすごいわ。キティ、」
アレックスはキティに向きなおって言った。キティはギクリと身体を震わせてから、真剣な目でレイチェルを見てから、よく見ていてと言った。
レイチェルはわけが分からずあいまいにうなずくと、キティはアレックスの前に小さな手を差し出した。アレックスはうなずくと、持っていたナイフを何のちゅうちよもなくキティの手に刺した。
「キャアァ！何するの？！アレックス！」
レイチェルはあまりの事態に悲鳴をあげながら叫んだ。キティの手から鮮血がしたたっている。早く手当てをしなければ。いや、キティのナイフの怪我は手のひらを貫通している。病院に行かなければいけない。
ナイフを抜いてはいけない。抜いた途端に大量に出血をしてしまう。このままナイフを固定して病院に連れていかなければ。レイチェルは怒気をふくんでアレックスに言った。
「アレックス！早くジープで病院に！」
「レイチェル、黙って見ていて」
アレックスは騒ぐレイチェルを無視して、キティの手に刺さったナイフを勢いよく引き抜いた。
キティの小さな手からドクドクと血が吹き出す。レイチェルは耐えられなくなって悲鳴をあげた。
「レイチェル！ちゃんと見て！」
キティは刺された左手首を右手でしっかり押さえながら厳しく言った。レイチェルはガタガタ震えながらキティを見ていると、驚いた事にキティの手の傷が綺麗に消えてしまった。
「・・・、嘘」
「嘘なんかじゃない。キティは身体を再生する力を持っているの。それだけじゃないわ、」
レイチェルの呟きに、アレックスはおごそかに答えてから、おもむろに引き抜いたナイフを自分の手に刺した。レイチェルはぐったりとしてしまい、悲鳴をあげる元気もなかった。
アレックスは表情一つ変えずに、ナイフを引き抜くと、血が吹き出している左手をキティに差し出した。キティが小さな手でアレックスの左手に触れると、アレックスの左手の傷は跡形もなく消えてしまった。
「アレックスの傷も治った、」
「ええ。キティは自分だけではなく人の傷も治せるの。キティがこれからの戦いのカギになるわ」
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