偽物の姉
婦人警官に付き添われ、レイチェルは取り調べ室を出て、警察署の出口まで案内された。
正面玄関に向かうと、レイチェルに気づいた一人の女性がレイチェルを見て微笑んだ。燃えるような赤い髪の美しい女性だった。もちろんレイチェルは初対面だ。レイチェルはぼんやりと赤毛の美女を見つめた。
レイチェルの肩を抱いていた婦人警官の手に力が入った。レイチェルと赤毛の女性がまったく似ていない事を不審に思ったのだろう。
レイチェルはブロンドの髪に青い瞳。対する姉と名乗る女性は赤毛に薄い茶色の瞳だ。
赤毛の美女は突然怖い顔になって言った。
「レイチェル!あれほど言ったじゃない。あんな不良たちとは付き合うなって!私がどれだけ心配したと思っているの!」
赤毛の美女の突然の剣幕に、レイチェルよりも婦人警官の方が驚いたようだ。
「落ち着いてください。ミス・・・、」
赤毛の美女はハッとした表情になり、婦人警官に向き直って自己紹介をした。
「初めまして。アレックス・セバーグです。この度は妹を無事に保護していただいて、何とお礼を言ってよいか」
「警察として当然の事です。妹さんはとてもショックを受けています。どうかあまり怒らないであげてください」
婦人警官は、アレックスと名乗る女性をレイチェルの姉と認めたようで、柔らかな声で哀願した。アレックスは指で眉間を揉みながら答えた。
「ええ、分かっています。警察署に着くまで心配で心配で。無事な姿を見たら腹が立ってしまって」
アレックスはレイチェルの頬を撫でながら微笑んで言った。
「大きな声を出してごめんなさい。無事で本当に良かった」
ここでレイチェルが大声でこんな人知りませんと叫べば、婦人警官はレイチェルを姉と名乗る女性に渡しはしないだろう。
だがレイチェルはアレックスと名乗るこの女性を信じてみようと思った。どうしようもなく疲れていたし、もうどうなってもいいと思っていたからだ。
それにもしアレックスがレイチェルを罠にはめようとしても、レイチェルは無力な小娘だ。そこまで利用価値もないだろう。レイチェルはか細い声で言った。
「心配かけてごめんなさい、お姉ちゃん」
アレックスはホッと息を吐くと、ポケットからメモ帳と万年筆を取り出し、何かを書き付けると婦人警官に手渡した。
婦人警官は受け取ったメモに目を通してからうなずいた。
「わかったわ。レイチェルに何か聞きたい事があれば貴女に連絡させてもらうわ」
アレックスはまるで本当の姉のように、レイチェルの肩を抱いて婦人警官に礼を言った。
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