三 大肚
「よしよしよし」
相模国玉縄、ここはかつて武士の都である鎌倉と近いため、鎌倉を護るべく重要視された。故に、伊勢宗瑞は同地に城を取り立て、徳川家康の江戸打ち入りの後でも玉縄城は重視された。
要害として築き上げた玉縄城は巨大な城ではなかった。例え鎌倉と三崎に近いとはいえ、柳営(幕府の同時代呼称)はもう江戸へ移って久しいのである。
それに、家康が玉縄に入部させた男は、頭で戦う者であった。小さい城だが、広い御殿が拵えられている。奇妙なことにその御殿は華美な作事もなく、馬場のごとき広場が広がり、まるで放鷹場のような体であった。それはこの城の城主の趣味故であった。
今、玉縄の御殿の庭には、一人の老人を、楽しげに鷹に餌をつけている。
黒ずくめの老人は瘦せ気味で、骨に皮を被るだけくらいの風体であった。しかし、眼だけ輝いて、グルグルと回っている。枝のような手で鞆を被って鷹を留める。だが妙なことは、爪で簡単に目の前の老人を殺せる、凶暴な鷹は、手の上に大人しくしている。
老人は手慣れた動きで、箸で肉を挟み、その肉を鷹の口へ近づける。
まるで何年ものを慣れてきた経験で、鷹は一口で肉を呑んだ。
「いい子いい子」
髪も髭も白くなった老人は言う。若い時に鷹匠だった彼は、鷹は人間より偽りがない、信用できると自負がある。
(まぁ、信用できないこそ、この世に生きるのは面白いものよ)
「嘘をつくのは、人間だけ、でござろう?」
老人は懐いた鷹へ自問した。
だが鷹はただ小首を傾いで、無言に老人を見つめている。
「ははは、鳥はそんな難しいことを知らぬのよ。ほれ!」
老人は手を上げて、その時と同時に、鷹は空へ飛んできた。
「考えと謀は人間しかできないことじゃ。鷹は自由に狩り、飛ぶ、それでよい」
老人はそう感懐しているところ、パタパタと、急いだ歩音が近づいていた。
「父上!父上!」
顔がいつも不機嫌な息子、
「先ほど長崎奉行長谷川左兵衛殿より注進を受け、有馬修理大夫晴信は船で海外へいくとの由!」
「ほほ、それはまた面白いことが起こったなぁ」
老人、
正信はまるでウサギのように、その小柄の体で御殿の庭から縁側に飛んできた。
「行く当ては分かるか?」
「それは、長谷川殿によると、高山国だと」
「ほう~」
正信は口笛を吹きました。
「それはまた知らぬ国へ繰り出したモノよのぅ。」
「父上なにその吞気なことを、諸侯たる身でそのような軽挙をやるのは許すまじきこと、そして私に異国と商いをするのはまた…」
「うぬのその口利き、石田治部と似ておるの」
正信は息子へ心配そうに言う。
「置目を守らない大名相手なら、わしは石田治部で結構です!」
正純の答えに聞くと、正信は少しため息をした。
(わが家はこれから危ういのう)と過るも、もちろん口には出ない。
「異国と付き合い、商いと通信を催すのは大御所様の仰せではないかの?我らの生きがいは大御所様の御存念ををお支えすること。有馬殿もそれを遂行するための船出じゃ。うぬは大御所様の存念を置目破りと申すのか?」
「それは……」
正純は言葉を淀ませた。
「ソレハ、切支丹ノ大利トナラヌラナ、デゴザイマス。」
が、正純の後ろにもう一人が歩いてきた。
「おや」
正信は驚嘆した。
「汝もここにくるのは珍しいのう。按針」
「今回ノ貿易拡大、ヒノモト二タイシテ、アヤウクオモイマスル」
青い目を持つ裃を着ている侍――三浦按針はそう言った。
誠に奇妙な島に候。と晴信を思っている。
淡水から出立した時に、李旦から、淡水からタゲロエロエ凡そ百里(中国の一里=当時400mと判断)くらいと言うが、晴信一行はもう二日間歩いたが、今目にしたのは鬱蒼と野原ばかりだった。
山が多い島である。
自分が住んでいる肥前も山が多い、ここは肥岳の山々を思い出させる地じゃ。
道中には村々が散在し、一行は髷を結ぶ、瑠璃玉を飾り物とする人々を物を交換して、行き進む水や食料を買っていった。
やつらは李旦などの漢人と違って、ここの先住民らしい。
筒袖のようなゆるふわな服を着て、男は帯を使うが、女は広い布で腰を締めている。衣装と思われるが、全裸とも近い格好している人もいる。
「これはここの民の常の様子でございます」
皆は驚き目をその人らを見ているが、ユイラ―は気ままにあいつらと接していた。
どうやらここの民たち、裸姿を人に見せるのはまったく恥ずかしくないようだ。
男は短い髪を垂れ流し、耳に耳飾りを付ける。女なら唇両側の歯を抜く習慣がある。そのせいか、元々異国の言葉ですが、ここの女の子の口から出るとさらに不明瞭になります。
「この人たちは、ルソンにいる住民たちとよく似ている気がするのじゃ。」
ミゲルは昔ヨーロッパへ行く時、その道中に似ている人種を見たことがあるらしいので、その人たちを見ても驚く事はなかった。興味津々でこの人達と歩き歌い、食べたり、その生活している姿を見て、絵まで描いていた。
「別の国に来たなら、ちゃんと記録しておかないと。」
仁左衛門もこのような別人種、日本人より肌が黒く、より背が低い人々が気になる、あいつらを観察して、話そうとしているが、ユイラ―の翻訳がないと言葉が通じなかった。
これはナンカンという地の村にある出来事である。
見るだけでここは村だらけですが、「高山国にある国」や「ユイラ―と話した日本人」はいないそうです。ナンカンに食料と水を補充したと、さらに南へ進む。
(日ノ本、朝鮮、多分唐土さえ見たことがないばかりじゃ。)
晴信は改めてこの島は奇妙だと思い知った。
ツウサンという村にたどり着くとまた別の光景が見えた。
頭巾を被る女と髪が長い男に住んだ村である。
「ここと北の村は人の姿が異なるのか?」
長政の疑問は、ユイラ―には奇妙な問題らしい。
「人というのは、皆違うではないか?あたしは、仁左衛門とも違いますよ?」
この島は、風俗異なる民たちを住んでいると思いますると、角兵衛が言う。
「わしたちの『国』との違いと比べると、もっと大きいなぁ」
衣装だけを見ると同じ日ノ本の人間を分かるが、ここの村ごとの違いは肥前と薩摩と比べ物にならないのである。
「それならば、国という存在がおるのは難しいと思います……」
角兵衛はそう推測している。
「だが、ユイラ―はあると言いますが……」
「殿はあの女の子を信じすぎるでござろうか?」
あの子は所詮、奴隷商人から逃げる女でございます故、もしかしてあれは我らを助けるために一時言いだした方便かと……角兵衛は小声で言う。
「言い過ぎるぞ、角兵衛」
「申し訳ございません」
「暫くユイラ―を泳がせよう。もし本当に噓をついたら、処断すれば良い」
その時に我々もうこの島の情報を手に入れた。と晴信を言う。
正直、懸念がないとは噓である。とユイラ―と仁左衛門をはしゃいでいる様を見ていながら晴信はそう思っている。
この人はもしかして我々を騙しているかな?日本語を学ぶのは高山国へ漂流してきた日本人から勉強したもので、彼女も誰から日本のことを学んだのか言っていないから。
だが構わん。晴信はそう思っている。
今の世は合戦がなくなった。だがあくまでも日本国内のことだけであり、琉球とかにもまた戦の匂いがする。仮に幕府がここへ兵を遣わすと決めるなら、ここで物見をする方も、大御所様への良い手土産になるだろう。
それに、この島の風景は一々人の目を惹かれる。見たことがない果物も、暹羅や安南のような人々、常緑の樹木と芝。何より気がゆるめとする旅は、楽しい気がする。
外征がない旅はこんなものか?晴信は水を飲みながら思っている。
もし商人たちと南の国を見つけるといい。
だが南の国はそう簡単に行かなかった。
「ここからは山道しかないです」
ツケンという村を過ぎたことから、道はさらに厳しくなってきた。
「殿様、ここまでにしよう」
商人たちはそう言いますが、
「それはいかん、まだ国を見つけていないぞ!」
「けれど我々はもう無理でございます」
さすが山道は武士ではない人は危険と思って、やむを得ず、商人たちはここの村に託されて、もう一人の家臣が手紙を持って北へ向かう。
「手紙を読むと、顔殿の船はここへ来るだろう、そして彼はまた船で其方たちを我々にいる場所へ運ぶのでござろう」
李旦はその島の地図があるので、きっと我々を向かうところを知っている。
「貢物は俺が持ってやるよ。」
大力の山田長政は一部国へ献上予定の品々を、余裕で持ち運んでいる。
最初は彼はうるさいやつとしか思われていなかったが、ここへ来ると役に立つ人と思い始めている。
「殿は私とミゲル殿が守るので、ご心配なく」
ここから行く道は晴信、谷川角兵衛、千々岩ミゲル、山田仁左衛門長政とユイラ―達五人だけで行きます。
山に入るとまた鬱蒼した森である。
まるで緑の海に入るようだ。
「美しい森でござるのう」
ミゲルはそう感嘆した。
高く聳え立つ木は杉や檜と見える。例え如月(太陰暦二月)の今でも、緑の葉は鮮やく広げている。幹も三人の手を囲むより太く、中身は触るとずっしりしている。
「日ノ本にはそういう木も珍しくない」
今の日本は、度重なる築城や合戦の柵を作るために、木をひたすらに消費している、城の回りの山は禿山になるほどである。関ヶ原後、戦は少なくなったが、民の家も木で作るので、木材への必要はいつもある。
「わが国でもそんなにたくさんの木がありませんよ」
「有馬領……いえ、肥前も多分ないと思っております」
豊臣政権から土佐の良木、大和の吉野杉、信濃の木曾椹などを開発しているが、それはいつ尽きるか分からない。
「高山国と貿易するなら、こういう良質の木材を輸入するのはいいと思います」
「それは面白いの」
晴信は賛同するが、木材は運ぶ難いものである。そこで唐人であるアンドレア殿に頼むが、それとも地元の国は頼みこむか、その二択の方がやりやすい。
「角兵衛、再び顔殿が会う時それを話し合おう」
「畏まりました」
良いものを見つけたから、この旅は続いている。
森は良いものだが、限りがない森は困る。
見る限り樹木と緑ばかり、まるで迷宮に入るようだ。
「ユイラ―殿、この森はいつ越えるか?」
森に入ると一刻(二時間)くらい、万事も良く回る角兵衛はそう尋ねる。
「もし三刻以上をかかると、このあたりは食べ物と野宿出来るところがおりますか?」
だが、ユイラ―は角兵衛の疑問にはまったく気にしていないようだ。自分の意のままで歩いている。
しかも木の幹と石ころを雑然とちらしている道で、ユイラ―は赤足のままで歩いている。
「おい!君!聞いているのか?」
角兵衛はちょっと怒るが、晴信は手を挙げて彼を止めた。
「食べ物?宿?」
ユイラ―は一行を振り返って、分からない顔で晴信一行を見ている。
「そんなもの、どこでもあるではないでしょうか?」
鹿が多い、どこにでも鹿が走っていると見える。ここの住民たちも鹿の肉を食べていることを見た。
「鹿狩りか?だが宿もあるとは……まさか野宿とは申さぬな?」
「野宿はダメですか?」
ユイラ―はさらに分からない顔で晴信一行を見つめている。
「あたしたちはいつもそう過ごしていますが?」
「あのな……」
角兵衛は指でこめかみを揉みながら言っている。
「君はこの方は誰と心得る?やっぱり君は……」
「控えよ、角兵衛」
その時、介入したのは晴信。
「角兵衛、ここはそもそも異国の地じゃ。どこでも屋根があるところがと思うはいささか無理がある。唐入りを想えば、義兵も寒気もないだけ充分ありがたいではないか」
晴信はユイラ―を向けて頭を下げた。
「殿……」
「ユイラ―殿、家人のご無礼、どうご容赦を」
「それは……別に怒るなど……」
ユイラ―は多分晴信の身分についてよう理解していないだろう。だが「偉い人」と認識してきた、大員には従者に付く人はかなり限られているから、そのような人は素直に頭を下げて謝るのは、さすがに頭に追いつかないので、眼がぎょろっと開け、口も金魚みたいにバクバクしている。
「それより」
晴信は天の向こうを見ていた。日は落ちるところに、周りの景色は西に沈む夕日で紫色を染めていく。
「もうすぐ夜です故、ここに一休みしようか?」
「御意。」
「ならば食事として、あたしはそこの鹿を、」
ユイラ―はそこの木の棒を拾い、小刀を抜いたところに……
「その必要はない」
晴信はそう言いながら、自分の荷物を下ろし、その中に布を包まれる長いものを取り出した。
「殿、もしかして『あれ』を使うのか?」
「別にいいであろう?これも友好の品としてこの国の『王』に献上の品故、今ユイラ―にそれを披露するのは、良き折である。」
その布から取り出したのは、長い鉄管を構成するものだ。
「やっぱり鉄砲で狩りますか?」
「そこまで驚く顔じゃないねぇ、これはここにとってとても珍しいものですよ!」
山田長政は怪訝な顔でユイラ―を見ていた。
「いえ、あの……」
「まぁ、良い」
だが、晴信はユイラ―の隣に片膝立った姿で構えた。
「さき、北投の合戦に我々の鉄砲隊を見ただろう。それより」
晴信は火縄に火をかけ、弾を鉄砲に仕込んでいた。
「今夜は野宿故、美味しい鹿鍋を食べないと明日には気力が湧かぬ」
そして、林に歩いている鹿を狙い、丁度この際、鹿は頭を曲げ、晴信のところへ向いていた。
その眼は晴信を見つめている。
いい目じゃ。晴信の心にそう思っている。
まるで何か新しいものを見ている、新しいものを発見した目じゃ。
朝鮮に入った時、あの朝鮮の民が我々を怖く怖くてしょうがない目と大違った。
其方たちにも、時代を変るものを見せてみよう。
当初、種子島に着いた伴天連たちも、こういう気持ちであろうか……
そう思いながら、晴信は鉄砲の引き金を引いた。
爆発した轟音で、林にいる数百の鳥を羽ばたいた。
「主よ、我々が毎日の糧を賜り頂くことを感謝いたします」
晴信の祈りの終わったと、皆で焚き火を囲めで、持ってきた鍋で鹿鍋を食べる。
「まさかここにも、そんなに美味しい鹿を食べられておるのは。」
「大員もいいところでござるねぇ。」
弾一発で鹿一頭を仕留めて、ユイラ―は周りの地に青菜を探し、ミゲルと角兵衛薪を集めて火をかけた。山田長政は……備忘録に種々書き綴っていた。
「お前は何もしていないじゃないですか?山田殿。」
「いえいえ、これは異国の風景や物を記録する備忘録です!いつかこれは大事な先例として残ります故、これは大働きだ!」
長政は手帳を開き皆に見せた。中には今まで会った様々な人、動物、植物、日用品など、日之本に見たことがない物は悉く手帳に描いている。
「これ上手でござる……」
「そうでしょう?これは後に良き記録になると思うのだ!」
「だがお主は右筆とは似合わないだろう……」
皆は時間を忘れて鍋を回り、鹿鍋を食べながら談笑していた。
「明後日くらいまた人がいる村につくと思いますから、また面白いものを書けます」
「それは楽しみだ」
高山の鹿は山の中に走り回ったからか?肉はしっかりで癖がある味がある、一日疲れた皆にとって良き滋養になりそうだ。
「二日か……」
「殿、いかが致しますか?」
「いえ、この島はアンドレア殿によると、筑紫と同じくらい広いですが、大員を歩くには割りと時間かかるじゃと思う故」
「ここは日ノ本より道が整備していないだろう。ご心配には及ばぬ。某はアンドレア殿との連絡手段を持ちます故、きっと戻れるでございます」
夕飯が食べ終わり、皆一日中歩きまくったから、間もなくぐっすり眠っていた。しかし、夜は猪や獣を襲ってくるやもしれないので、野宿の時に不寝番が必要である。その見張り番は、意外にも晴信自身が務めていた。。
「今日はやけに元気ですので、一刻くらいわしは皆を見張ってやるわい」
「ありがたき幸せ!」
皆は晴信に感謝していたが、ある者は眠れないゆえか、今晴信はその人に向かって座っている。
二人の間に、焚き火だけメラメラと燃えっている。
「ユイラ―、そなたはその前にもう鉄砲を見たことあるだろう?」
「いつ見極めたの?」
ユイラ―は驚くことなく、平気で問返した。
「そなたは北投に儂たちの鉄砲隊に見たことに驚嘆ことなく、ただ分かる目で見ていることと、先刻わしが鹿狩りした時にも、わしは鉄砲を持ち出す前に、そなたはもう儂は鉄砲で狩ることと言ったので」
と晴信を言った。
「そなたは何者じゃ?……いえ、正しく言えば、そなたの『後ろ』におるのは何者じゃ?」
「……」
答えが出なかった。
「ユイラ―殿、日ノ本は数年前、国を二つ分ける大戦が起こった。その時、負けた方の兵士と将はバラバラに逃げてきたが、その一部の人たちは日ノ本の外へ逃げたと、日ノ本では信じておる。故に、もし、ユイラ―殿、もしそなたに日ノ本のことを教える人はその一部なら……」
晴信の言葉はそこに断った。
コゾコゾコゾ……
森の中に何か音がある。
イノシシや鹿などの獣と思ったが、この声がもっと賢く、もっとデカいと聞こえた。
あれは人間です。
「何者じゃ?」
晴信は小声でユイラ―に聴く。
「分かりません、だが、この当たりなら……」
布が半分しかない服を着ている男たちは森の闇の中に次々と現れ、彼の手の中に矢はすでに弓をかけ、臨戦態勢を取っていた。
そんな時、さき寝ている山田長政はいきなり目を開け、隣の槍を取り跳ね上げ、平青眼の構えで槍を男たちに向けて、警戒の目で男たちを見ている。
「何時の間に!?」
「待って!」
だが、晴信は長政を止めた。
「あの男たちは何を言っている」
確かに、男たちは神秘の言葉を口から出し、何を言っているそう。だが、この呪文みたいな言葉は日本、朝鮮はおろか、今までの大員も聞いたことがなかった。
「ユイラ―、あいつらは何を言っておるのだ?」
晴信の目はユイラ―に向うが、肝心のユイラ―は体が震えている。まるで水から上がったカワウソのように。
「何だ?どうした、ユイラ―殿」
沈黙の中、ただ男の群れに知らない呪文を唱えているのは、異様かつ不気味な光景で、ミゲルも角兵衛も全て起き、この奇妙な光景を見ている。
「何じゃこれは……?」
「我々は囲まれている……?」
その長い沈黙を破ったのはやっぱりユイラ―だった。
「彼たちは……『ようこそ我が国へ』と……」
「何!」
皆は驚愕と喜びの感情を顔にした。
「やっぱりここ大員は国がおるのう!」
「ユイラ―、君は家に連れて戻った!」
だが、ユイラ―はおずおずと答えた。
「ここはあたしの国じゃない」
「ならば、ここはどこだ?この人らはどんな者か?」
と晴信を言った。
「今の地は……」
ユイラ―はためらいげにこの国の名を言い出した。
「恐れながら、『大肚』という国でございます」
森を押し通して、武装した半裸の男たちにつれて来て(連れて来られさせられてという言い方がもっと相応しいかも)獣道を数刻で歩いて、森は突然視線が広がり、開いた「町」を見えた。
「これは……」
一面開いた空間に、千くらいの屋が並んでいた。その屋の形はまたは奇抜の物で、木で建てる屋敷を柱で支えて、まるで森の中にまた森が生えて、その上に屋敷があるようである。
町の周りに茨がある竹と木を囲めて、晴信一行は男たちに連れて、ある藤と木で雑草でな出来た門らしきの出入口に止まった。
そこにある頭が鳥の羽と飾り物で彩りに差す、奇妙な髻を結び女が出てきた。
彼は男たちに何か話したと、男たちは晴信たちに何を言った。
もちろん、あれは分からない言葉だが、晴信は、あの女は厳しい目で、まるで敵のようにユイラ―を見ていることを気付いた。
間もなく、晴信たちは男たちに連れて、町の中に入る
「彼らは先ほどより何を言っておる?」
角兵衛は歩きながらユイラ―に聞く。
「『わが王はもう貴方たちの御到来が予見しておりました。しばらくお待ちして、王は間もなく貴方と謁見します』と……」
ユイラ―は恐る恐るで翻訳しました。
「まさか王様と御目見えできるのか!?」
長政は驚くで興奮気味で叫んだ。
「待って、ユイラ―殿はかの態度なら、そんなに簡単なものではないだろう!」
とミゲルは反論した。
「まだ何かあるのか?」
「そして……」
ちょっと躊躇ったが、ユイラ―は言いました。
「『なぜ敵がここにいる』と」
ああ、なるほど。と晴信の心にそう思った。
道理で我々が見つかった以来そのおずおずの態度を……。
町に入ると、また違う光景を見える。
「ギャアアアアアアアアアア!!」
「見よう、人たちは駆けっこをしておるぞ!」
町の広場に、上半身が裸にする、刺青を施した男たちはデカい奇声じの叫びを発しながら、全力疾走している。
「ここの者共は足の鍛錬を取り組んでおるか……」
「あそこも弓矢を練習する男もおる。」
もう一つの方向には、ここは動物の刺青が全身に施した男たちは腰に紅の布を回して、重藤で作った弓で、素早く速度で矢を放った。
「軍備が強い国じゃのう……」
晴信はそう感懐した。
道程にはユイラ―は無言のまま。ずっと歩いて、この町の果てに表したのは、前には大きな広場を持つ、茅で屋根を出来た大きな屋敷である。
これは王の宮殿か?都でも見た晴信にはかなりみすぼらしい有様だなぁと一瞬思ったが、顔には出てこなかった。
「あちらへ登ってください」
柱の上に台が建って、その上に建てられたこの屋敷は木の階段がある。
「まず手前が先に」
角兵衛はそう言いました際に
(ようこそ我が国へ)
と、誰の声が心の中に響いた。
「誰じゃ!」
「ここにいる人ではないぞ!」
渋い男の声で、晴信でも角兵衛でも長政でもミゲルでもない声で皆を混乱しているが、周りの人は皆同時に跪いた。
分からない言葉を唱えて、相当不気味な光景と思わせる。
(あれは余を讃える呪文じゃ)
あの声が言った。
(入り給え……)
風がないのに、屋敷の門は得も言えぬ力で開いた。
「何という力じゃ……!」
「まるでデウス様の奇跡でござる……」
ミゲルも角兵衛も驚嘆した。
だが、戦国大名たるものは、ここに引く訳にはなかろう……!
「面白い……」
冷え汗がかきながら、晴信は手で十字架を描く。
「其方の『王』とやらは、一体何者かを、儂に見せて頂こう……」
彼は震えながら、不敵な笑みで階段を踏み込んだ。
「尊顔に拝見頂き、恐悦至極に存じ奉りまする。有馬修理大夫晴信、この国の国王お目通りしたくため、日ノ本より罷り出で候……」
薄暗い屋敷に、晴信は頭を下げて、ほかの人達は平伏して、武家の礼法で謹んで向こうの人物へ口上を申し上げた。
当人の顔は陰に隠れたが、逆に威厳を醸している。
(……ここは何年ぶりに
また渋い低音が響いた。
(ようこそ我が大肚へ。日ノ本の者たちよ)
あの声が言った。
(余はこの国の王、「
(?儂らはまだ、自分はどこの国に来たのはまだ話していなかったぞ?)
口上を聞いた晴信すぐおかしいな所を気付いて、その疑問を話した。
「白昼の王様よ、尊い君は、日ノ本の言葉は話せるでございますか?」
(いえ、話せぬ)
「?それじゃ何でわしらと……」
(余は神である、今君らと神力で、心から直接に話していおるので、君らは君らの国の言葉と聞き受けるであろう。)
神力……それを聞く途端、晴信思わず眉をひそめて、首に付けているロザリオを握りしめた。
(ああ、異国の宗教を信じる君は快くない話だのう、だが、この島にはそういう「神様」がおわすものか)
渋い音は快活さに帯びて言いました。まさか儂の信仰も……いえ、心の中も読めるのか!?晴信は驚懼させてしまった。
(この島に「祖霊」を信じている。万のものは全て「魂」が含めて、亡くなったご先祖様たちも皆霊となり、神力となり、皆を守っている。)
「それは……わが国の神道と似ている信仰でございますなぁ」
晴信の声は思わず震えている。
(さすが異国の領主か?それども唯一の神を信じる信仰を後ろ盾にしているか?アリマよ、貴殿は侮れませぬな)
異国の人はまだしも、ほかの社の人は余の「力」を見ると、恐れて逃げる人もおるぞ。と白昼の王を言った。
「生憎だが儂は役目がある故でございます。遠路はるばる肥前からここに来たので、ここに引くわけには行けぬじゃ。」
(役目?おお、貿易か?)
「如何にも、昔の頃、太閤殿下はこの高山国へ使者を出し、通貢へ求めたはずでござる!もし、王様は神の力があれば、使者の言葉を分かるはず……」
だが、白昼の王の答えはがっかりしだった。
(使者?会ったことがない)
「何!?使者が来ていなかったのか?」
(そもそも、君らが今まで観た通り、この大肚以外にまだ数多の社がおる。社ごとそれぞれ違い言葉、風俗がおる、まるで国バラバラにしたようじゃ。君らに言う人はこの山深い国を見つからなかったのか、あるいは海難に遭難したのでだろう……)
それならば、こっちらから率先に友好関係を建てなければならぬ。と晴信が思った。
「角兵衛、貢物を」
「ははっ」
角兵衛は背後の葛籠を下ろし、それをあげ、中には煌びやかな揃いがある大小の太刀、錦の袋にずっしり詰まる金と銀、職人たちに丹念に作る複雑な花と浜千鳥模様の蒔絵の器、そして……
(おお)
無骨な感じを漂い、素樸でいかにも『武器』が感じられ、「種子島筒」と呼ばれる形である。前端が膨らみ、筒が細い鉄砲二梃が白昼の王の前に恭しく並んでいる。
「これを、白昼の王様への献礼でございます。どうぞお受け取り奉りまする」
(良き品々じゃ)
顔は見えないが、白昼の王の声が笑っている。
(だが、余は半分だけ頂こう)
「それは、何故でございますか?」
(……)
君らは後に分かる。暫くの沈黙の後、白昼の王はそれしか言わなかった。
肝心な言葉しか言わない、まるで禅問答のごときじゃと晴信の心にそう思っている。
「もし貢物を受け取るなら、大肚から、日本への使者を出して頂けますか?」
(それは、難しい事のう)
「何故でございますか?」
(余は王と言っても、この力で、他社との間に仲裁や助言、狩り物の分配するだけじゃ。そこまで大きな力がないから、外国への使者など……)
それを言う時、白昼の王の声は別にそう悲しいと感じられません。
(そもそも、この国は、人々が助けを求めるから、緩く集めた国じゃ。外国への交流や拡張は、余は然程興味がない)
「それならば、何故、儂らを受け入れたのか?」
(それは、潮時じゃからのう)
白昼の王の答えは、意外と淡白だ。
(君らに来れば、これから我が国は異国と、嫌でも関わるだろう。ならば、この機会に、皆に異国はどんな物か見せるのが良いと思うての)
晴信は白昼の王の眼は何か「今」ではなく、遠く「どこか」を見ていると気がした。
(さて、今日はここまでにしよう。)
わが母は君たちのために宴を用意したので、是非参加して頂きたい。と白昼の王は言った。
「それはありがたい。」
(そしてもう一つ、ユイラ―)
「え、あたしですか!?」
突然の呼びで、ユイラ―は地に跳ねたほどビックリした。
(君にはすまないとしか言えなかった)
まさかの謝り。
(現在、わが国は南の新港と麻豆社と水争いが起こして、今、双方は『合戦』と決めたから、君にはそう厳しい態度を取る。許してくれ。)
「いえいえ、とんでもないことです。分かっていますから。」
王に自ら謝りにきたが、普通に明るいユイラ―も慇懃過ぎると見える。
「新港?麻豆?」
これはまた知らぬ名前が出てきた。
そして水争いなど。
(日ノ本の郷村と変わらぬではないか)
と晴信は聞きつつ過った。
(あれは大肚の南にある最大勢力、「国」でも呼ばれるだろう?この娘はかの地の生まれなのだ)
道理でユイラ―は訛りと言葉はここら辺の人たちと違います。
ここに白昼の王はチラっと山田長政を見た。
(君はあそこに海へ渡せばいい)
「?俺はここにまた行くつもりはないです。」
長政は疑問だらけの間抜け顔で答えた。
(君が求める物は恐らくこの島にもうない。だが、余は君が遠く国で……)
「待って!」
白昼の王が話している途端に、長政に止めさせた。
「自分の夢は叶うかどうかは自分の目、自分の手で確かめる物でござる。ほかの人にさきに言うのは、楽しくないから!」
長政は輝く笑顔で言った。
(自分の手か…..)
分かった、それだけにしておこう。
晴信は白昼の王の顔は見えないが、彼は寂しく笑っていると見ていた。
「君たちと通商することはあり得る話」
夜、晴信一行は大肚の国に行う宴を参加して、宴の場に、大肚は町中の男に集めて、広場に駆けっこさせて、目標に布を結び木の棒を差す余興がある。首領の女によると、これは祖霊祭の後に、ご先祖様への供養儀式というものである。
晴信一行は宴に大肚の食事もご馳走させていただきました。大肚の食べ物は日ノ本と形が少し違い稲、と芋、粟を土器に盛りつけて、石の上に並べた。
「大員にも餅があるのか?」
角兵衛は驚いた。土器の中にも日ノ本の餅のようなものがあります。
「これはツツと言いものでございます」
例え馴染むものでもここは違う名前になると、晴信一行は実感しました。
「さぁ、一献を」
頭に華麗な花と飾り物を挿す女は祝杯を挙げ、晴信の土器に濁酒を注いでいた。
(どぶろくらしい物じゃのう)
酒についての技術は日ノ本には敵わない、伴天連たちに持ち入れた、色と口応えが綺麗なワインにも劣っているが、そこで素直に飲むのは礼儀だ。
晴信はそう思いながら一口で飲みます。
「おお、いい飲みっぶり」
女が言った。
南蛮の酒だが、思ったより美味い。
「有馬様、この国は如何と思いますか?」
女は意味深な笑顔で笑いながら、そう問います。
今の広場に余興の舞を踊っている。数十人の女たちは赤い襖や錦の服を着て、手を繋いながら踊って、歌っている。
賑わい余興だが、何故か、その女たちの歌声が悲しいと感じた。と晴信を思った。
「ええ、良き国と思っており申す。是非とも使者を出し、我が国と通信通商すべしと存じます」
「ええ、ごもっとも」
女はそう言った。
「君たちと通商することはあり得る話」
「これは誠か!」
下座にいる角兵衛の声は嬉しい色が隠れない。
「各頭目との合議する必要があるが、こちらの言質を取れるなら心配ありません。何せ、この国は女で運営する国です故」
「女?」
そう言えば、今踊る人も、昨日から野良仕事をやっている人、皆女の人だった。
「この国は家の相続権は女に握っている。王は神の象徴であるが、現世の権力はこの『白昼の王の母』に牛耳している」
一瞬、女の雰囲気が変わった。背筋がゾッとするくらい寒気が襲われるようである。
「母……だとッ!」
「それじゃお前の齢いくつか?!」
「ここは『時間』の概念はない。我々は祖霊とともに生き、ともに死ぬ。年齢は我々には無意味なことに等しいのです」
女は顔一つに変らずに言った。
「そうでございますか。まさに、我が日ノ本と異なる、また唐、朝鮮と違う地じゃ」
蛮夷と思ったが、『文明』と離れる所に別の我々が知らない「力」があると、侮れない物があると……晴信の声が少し震えた。
「さて、本題に戻りましょう」
女は笑顔を戻って言った。
「君たちと通商することはあり得る話だが、一つ条件があります」
「条件?」
「数日後、我が大肚が南の新港社と戦うこととなります」
「その事、其方たちの王と対面した時もう伺い申した」
「その戦へのあなた方の参陣が、条件なのです」
「え?」
女の言葉に、晴信はわが耳がおかしくなったかと疑ってしまった。
「御母堂様、我々はあくまでも外国の使者、他国への戦を参加するなど……」
「それならば通商はなかったとせざるを得ませぬ」
女は強引に角兵衛の返す言葉を中断させられた。
「私たちは初に相まみえた相手は信用出来ません、もし、確たる心があるならば、通商することは頭目たちも同意するでしょう」
女は言った。
「そして、貴方方は人を探していると聞きます。そのような人は我が大肚にいるではない。それならば……」
「其方が言いたいのは、儂らが探したい者は、其方たちと戦を仕掛けたい国におるということか?」
晴信の問いに、女は答えず。
(これは当たりじゃ)と彼は確信した。
「だが、そこの国と合戦すれば、我々が探したい者と手切れになるのではございませぬか?」
「そこは心配ありませんと……」
「何故でござるか?」
女はそれも答えなかった。
「謎々じゃのう、これは大肚の流儀か?」
「それは、戦になった後に分かります故」
女はそう言った。
「しかも、この子は新港出身かな?この戦を参戦すれば、この子も家に帰ること叶いましょう」
女は細長い目でこう通訳しているユイラ―を見ている。
嫌味か……敵じゃないとしても、非我族の人は国にいると快くないと思います。この機会で厄介者払いしようとでも考えているだろう。
「実は戦の日が近いので、早く決していただけると幸いにございます」
どうする?とにかく誤魔化し皆の衆議を議したいと、晴信を思っている。
「御母堂殿、我々はあくまでも日ノ本の使者でございます故、その儀は他の使者とも詰めねばなりませぬ。しばし猶予を賜れぬものでしょうか?」
「それも一理ありますな」
女はそう言ったと少し考え込んだ。
「ならば一日の猶予を与えよう。だが、戦は三日後に約束故、出来るだけ早く決して欲しい」
これもあの子のためですよ、と、女は意味深い目でユイラ―を見ている。
「嫌でも構いませんよ、我が国は通商など興味がなく、ただ、この国を保つ事を腐心しているだけですから」
大肚の町は静だ。皆穏やかなに暮らしている。まったく三日後に戦になる気配と感じていなかった。
「どう思う?」
宴より宿に戻った後、鞆や小具足を手入れしている角兵衛を問いつつ、自身も波平の刀を研いでいた。
「手前は殿の下知なら反対する道理はございませんぬ。何せ、手前の進言で此度の旅があり、殿と我々は今回の使者になったのです。もし何かしくじると、それも手前の責任でござる」
元は戦のつもりはないが、高山国へ来たから小競り合いとはいえ、もう一度戦った。また戦になるとさすがに晴信もこの旅の目的よりずれたと思わざるを得なかった。
「なれど、殿なら戦にしなくても争いを終わらせる国から来たでござろう?」
角兵衛は晴信へ爽やかなに笑った。
「かくて彼らに言ひたまふ『全世界を巡りて凡ての造られしものに福音を宣傳へよ』」
宿の木屋から出たと、人々は畑を耕していた。
この地の人はまず林の樹木を火に付けて焼き払い、その焼き払った野原に灰を肥料として、粟、米などを育てる。
いつかこの島の樹木はすべて焼き尽くされるであろう。と晴信を思っている。出来ればやつらに田んぼの作り方を指南したいと思います。
もしくはここから物を日ノ本へ送り、日ノ本は糧をここへ送れば、皆はそういうやり方はしなくてもいいだろう。
「信じてバプテスマを受くる者は救はるべし、然れど信ぜぬ者は罪に定めらるべし」
晴信は畑の一角に向い、あそこには大肚の子供たちに囲む、まるで伴天連のように聖書を読み上げている男がいる。
「信ずる者には此等の徴ともなはん。即ち我が名によりて惡鬼を逐ひいだし、新しき言をかたり……あ、従兄弟殿。」
「そなたもうデウス様の教えを棄てたと思ったが」
「棄てましたよ」
ミゲルは言った。
「だがこの国はいつかも南蛮人をなだれ込むであろう、いえ、もうなだれ込んでいると思います。おいは欧羅巴に数多くの奴隷を見ましたから、この地にそうなりたくないと思うのです」
ミゲルは子供たちを見ていた。
「だから、『彼を知り、己を知れば、百戦殆からず』と……今この島の子供たちをおいが知ることを教えたいと思います」
ミゲルは子供たちの頭を撫でながら言っていた。この顔が日本人より彫りの深い子供たち有馬領内の子供より痩せているが、健康な日焼けで笑顔も絶えなかった。彼と彼女たちは後に良き戦士、良き妻、良き父と母になるであろう。
「皆は素朴だから、戦うであろう?」
「ああ」
素朴だから、あまり複雑のことを知らず、政治の駆け引きではなく、純粋に、最も原始的に、人と人の権益をぶつかる時に戦うと選んだ。
まるで
「太閤殿下の国書は届く人がない道理が分かります」
「こちらは我々と同じ民たちが通うことがない小国寡民です故、か?」
「いかにも」
どの国へ殿下の命令を伝えばいいのか悩んで、最後は行方晦ましたであろう、原田殿は。
「だが、だからこそでございます」
「?」
「殿はあの
ミゲルは口角に二つのえくぼを作るほど大いに笑った。
そうだなぁ。と晴信を思った。
儂は二人の天下人を見て、あの乱世はどう終わらせるかを見た男だ。
何か悟ったみたい。と晴信の心に何か決意した。
「語り終へてのち、主イエスは天に擧げられ、神の右に坐し給ふ……」
元はキリシタンだったからか?ミゲルを唱えている聖書は音楽みたいのようだ。
「俺はどっちでも構わないよ」
林の緑に囲む中、山田長政は粛々と槍を振っていた。
「俺は戦えばいい」
「簡単なやつだなぁ、仁左は」
ある程度予想しましたが、晴信は苦笑を禁じ得なかった。
「日本にはもう戦場がない。出世する道がなくなっちまった」
銀の光りを放った槍先は空気を突き放し、風切るしゃぁしゃぁな音を出てきた。
まるで慟哭のようだ。
「ならば、日本の外にはきっと戦場がある」
「どうしてそう思う?」
「少し前まで、我々はそうやって生きてきたから」
日本はそうなら、異国もきっとそうか?
「其方は思ったより変通が通じない男かもなぁ」
「いえ、人々の心はきっと萬に一つと思います故」
「人間たちはすべて普遍的な性と思うと、碌な結末にはならぬぞ」
「旦那こそそう気を付けなければならないでしょう。政治の巧者でもしくじるよ」
「儂は自分より年下の人をそんなことに説教されるほどの愚か者ではない」
「さぁ、どうですかな……」
長政は笑った。
「とにかく、俺は旦那を感謝しますよ」
「儂が?」
「旦那は俺をこの地を連れて来て、俺をこんな今まで見た事がまるでない冒険と出会えて、合戦までやらせてくれて、本当にありがたいことばかりだ!」
勝手に船を乗っただけどなぁ……と晴信の心にそうツッコミしたが。
「だから旦那は何を決めても俺は従いますよ」
長政は話しながら槍を振り続いた。突き、薙ぎ、叩き、この人の槍捌きは水のような流れを見ている。
この傾奇者、迷いはないのねぇ……と晴信を思った。
槍一筋で生きる実直の武者はそういう者か……
「まったく、時代遅れの猪武者め……」
晴信は苦笑した。相変わらず長政は好きではないが、憎めない感情が湧いてきた。
「それによ、有馬の旦那。ユイラ―を家に帰らせたいだろう。ならば今回は良い機会じゃねぇか?」
突然、長政の言うことは晴信を吹き出した。
「何でいきなりあいつのことを……」
「だって好きでしょう。ユイラ―のことを」
「其方はなぜそのようなふさげを……」
恥ずさを隠れるためか、晴信は早速話をすれました。
「あの子のことはさておき、ならば、『平和のために戦う』方はどう思います?」
この話を皮切りに、長政の顔はキリッと真面目になった。
大肚の国の人に手配した屋敷に、具足を纏める晴信は床几に座っていた。赤糸縅の鳩胸南蛮胴と小袖の鎧袖を身に付け、栗型の南蛮兜に金色のクルスの前立を飾り、獅子と唐草文様の更紗陣羽織も被って、まさに陣装束と言える姿だ。
何かいつ経っても、この格好は妙に落ち着くものよ。と晴信を思った。
面の前に角兵衛、ミゲル、長政とユイラ―は胡坐をかいた。長政はあの大袖付きの沢瀉威の胴丸と黒漆塗りの大天衝脇立桃形兜を身に付け。ミゲルは中萌葱糸縅の腹巻と唐瓜前立の星兜、角兵衛は桶側胴と鉢金、ユイラ―はいつもの格好で床几に腰掛けている。
まさか、この地に入ると二度も戦をするとは……
やっぱり、我々は、もののふじゃ。晴信は思った。
だが、我々も、ここより
「我々は、これより大肚と新港の戦にに加勢致す!」
ここは蒸し暑い、如月なのにこの高山国は湿気が高い、鎧を着ると汗がダラダラとかいているが、晴信は心が躍ると思っている。
(これぞ、武士!)
「だが、この戦は相手を滅ぼすために戦にあらず、我々は武威を双方に見せつけ、日ノ本の名義で両国の中人となり、両方とも通商を執り行う所存である!」
そう、これは晴信の策。
ただ、これは天下人から借りた、何の変哲もない策ですが、ここ、まだまとまらない高山国には実現できると思います。
「だから北投との戦と違って、両方の恨みを買わないように、人を殺せぬにせしむべし!」
これは、両方に良い顔を売る最善の策と思います。
「人を殺せぬなんで……無茶な命令ですなぁ旦那」
「これは其方の冒険を続けるためぞ、仁左」
其方もユイラ―の国にも見たいでしょう?と晴信は長政へ言った。
「しょうがないねぇ、最善を尽くすか!」
長政は言われると頭を掻きながら苦笑した。彼は暴れん坊だが、冒険したい気持ちは本物ですから、今回の命令を叶えるだろう。
「ユイラ―」
晴信はユイラ―へ言った。
「は……はい!」
「我々は必ず其方へ家を戻らせる。安心して儂を付いておれ。」
それを聞くユイラ―は頬を赤らめた。
「は、はい、畏まりました」
(ほう、この子、敬語でも使えるのか?)
可愛い所だなぁ、と晴信を思った。
「よっし!皆の衆、出陣じゃ!」
合戦の場は大肚と少し離れる「タミオ」という処だ。
図を見ても、晴信たちも分からない。
李旦たちからこの島は馬がないと聞いたが、移動については不便だと思ったが、大肚の人たちはすぐ晴信たちを驚かせた。
槍や短刀、弓矢を持つ、ほぼ半裸の男達は凄まじい速度で走り、大将らしい「白昼の王」の母を担う者達もそれも劣らぬ速さで前進していた。
「徒歩だけでそんな早さ……」
馬がない故か?それども馬の必要がないからか?晴信達も一杯一杯でかろうじて大肚の軍勢を追いつき、戦場をたどり着いた。
「あれは……新港の軍勢か……」
タミオには川を挟んで、小高い丘も聳える平原地域である。川の向こうには男と女を混ぜている一団がいる。
晴信達はやや離れる右に配置され、草叢に身を隠している。
「赤備えみたい……」
男は真っ赤な服と特殊な模様の裙を着ている、ユイラ―の草葉の裙とよく似ている。頭の上は鳥の羽で飾って、ユイラ―の衣装より煌びやかと感じられる。
しかも、軍勢には大勢の女子もいる。彼女達は同じ武器を持ち、男達と一緒に並んでいる。
「ユイラ―殿のような女子の武者は特例じゃございませんか……」
「ええ、我が社の掟は『女は上』ですよ!」
ユイラ―は嬉しげに晴信達に教えた。
「それはそうでござろう、大肚はあの王の母らしい人は国を仕切るでござる故、この島の普遍の風習と思います」
「だが女子の武者がおるのは予想外じゃ」
「女じゃ手出しつらいなぁ」
だが、皆はここにもう見て来たから、掟より女の武者より驚いた。
「まぁ、女子があれど、計画は変わらず遂行に候」
「だが、戦とはいえ、人数が少ないでござる」
確かに、ざっと見ると、大肚と新港は互い百人ほどの軍勢を出すしかない。これは合戦より村争いの方が相応しい様相である。
「人少ないから私達を欲しいでしょう」
「ならば好都合じゃ。」
話している間、王の母は天に向けて、上半身を振って何か唸っている、そして百人ほどの戦士たちも何か歌のようなものを歌って踊っている。これは巫の儀式であろう。
そのおかげで、皆は晴信達の会話は気に付いていなかった。
「女がいるが手加減はせず、力を見せてやる後扱いの流れを作るのじゃ!」
「畏まり申した!」
その時、ある儀式のような歌が終わり、男達は前に懸かり、敵である新港社の軍勢に向って川を渡ろうとしている。
「勇壮の声じゃ」
戦場に見慣れた晴信はこの光景に達観している。
「角兵衛は二度目であろう?」
「如何にも」
若い角兵衛は前回に戦に出たのはもう関ヶ原の時だった。
「ならば、これを頼む」
晴信が渡したのは法螺貝だ。
「戦の新人への開運じゃ。高山の地に合戦の烽火をあげよ!」
「は……はい!」
感動した角兵衛はその法螺貝を持ち、口に近くて吹くと、鈍い音が響いてしまった。
交戦中の敵味方双方もこの声で動きが止まった。法螺貝の声はこの地の先住民に聞いたことがない声だそうだ。
「頃合いじゃ!これぞ我々の戦の音じゃ!懸かれ~」
「おお!」
草叢から飛び出して先駆けしたのはやはり山田長政だ。彼は雄叫しながら川を渡し、皆赤の槍を振って、まず先頭に出会う女の肩を槍で叩いて昏倒させたと、すぐ槍を横に回して、二人の男をなぎ倒した。
「山田仁左衛門、一番槍!」
「あのアホ、すぐ熱血を頭にきたか……」
我々の目的を忘れたのか?……と晴信は頭を抱えるが、素早く動いで晴信達の持ち場にくる男女がいる。
「殿、どう致してござる?」
「ユイラ―」
名指されると、ユイラ―は族語で彼らを話してみる。
男女の動きが止まったのが、そして驚愕の顔に出た。
「何か話した?」
「『先生』と同じ土地の人がこっちに来た、と」
そこで男女は何か話した
「貴方に問う。『貴方は何者か、ハラタより偉いのか?』と」
「儂は有馬修理大夫晴信、肥前日野江の大名……」
待って?はらた?
晴信はビックリする余りに地から弾けて、男の肩を掴んだ。
「其方、原田と言ったなぁ!?『あいつ』はここにおるのか!?」
男は何か言った。だが何も分からない。
「ユイラ―、こいつは何を……」
とその時、
「危ない!」
後ろの叢にいきなり刀を持つ男が出て来て、その寛刃を晴信へ振りかざしている。
「チッ!」
晴信は舌打ちしながら男とともに抑えながら身を伏せた。
「やめなさい!」
ユイラ―はこの時短弓を引いて、一矢で空振りした男を倒した。
「ユイラ―殿、お見事!」
角兵衛は駆けつけてユイラ―を讃えたがすぐ主の傍へ行った。
「殿、ご無事でござるか?」
「角兵衛、こいつは『原田』と言ったじゃ。」
興奮かそれどもさきの危機か?晴信は息が絶えそうになる。
「はらた?……もしかして!」
「ああ、」
晴信の声に悦びが隠れない。
「アンドレア殿が言い通りじゃ。ここには和人がいる――否、『あいつ』がいる」
晴信に抑えられた男がまだ何か言っている。
「儂はこの人の口から……」
「有馬殿!申し上げます!」
晴信が何か言っている所に、その話はミゲルの声で打ち切った。
「山田殿が新港側に包囲され申す!そして大肚にも人がこちらに向かう様子!」
川に渡った長政は勇戦しているが、血気が盛った故ほかの人達と連携を取れず(だが、当初の作戦から言葉が通じないから連携を取る想定がない)、一人だけ数十人の新港人が包囲されている。
そして同時に晴信と新港人達の絡み合いを見て、怒号している大肚の人が何人も来ている。
「軍監までおるのか!表も裏も敵か……」
少し考えたが、晴信は素早く対応が出来た。
「ミゲル!大肚の人を持ち堪えさせるべし!儂はまだこいつに聞きたいことがあるのじゃから!」
それに、仲裁するためなら、まず儂らは両方でも圧倒出来る武威を示さねばならん!晴信の雄叫びは戦場に響いた!
「しょうがない
ミゲルはため息をついたが、何か口元に笑みを浮かべていた。
大肚の兵士たちは晴信に進むが、突然、驚いで退いた。
彼らは退く理由はミゲルだけではなく、彼らの面の前に横にしたものだ。
剣だ。だが、日本の剣と違って、細くて鋭いものである。南蛮のレイピアである。
しかも、南蛮の剣なのに日本式の鮫肌を元で蒼い柄巻を備える、剣身には流れ水のような地肌を持つ、明らかに日本の職人で作ったものと分かるものである。
水口レイピアというものがあるが、このレイピアは賤ヶ岳の七本槍である加藤嘉明が豊臣秀吉から拝領した南蛮渡来の物として、今は後に加藤氏の領地である水口藩の藤栄神社に代々伝わってきた一振りだが、2013年の研究によってこの剣は西洋ではなく日本の職人で作った可能性があると浮上するので、当時の日本は西洋技術を学んで、刺突用の西洋剣でも作れる能力があると考えられる。
「従兄弟殿の用事が終わるまで、ここは一歩でも通しません!」
今、ここ高山国に、遥か遠くローマから戻った天正遣欧少年使節の一員である千々石ミゲルは、刺突の構えを取って、大肚人から見たことがない輝く光を持つのの剣で相対する。
川の向こうに、山田長政の荒々しい舞はまだ続いていた。
「面白い……」
長政は新港の男女に囲まれたが、不敵な笑を消えません。
「戦場はこんな面白いのか……」
突きに来た槍を躱し、肘でその人の顔を突き、彼を失神させ、そして槍でなぎ、風を引き裂ける音で数人を倒し、後ろに気配を感じる時石突で一突き、後ろにいる敵が倒した。
滾っている熱血、得も言えぬこの高揚感。
北投の時経歴したものを上回るものだ、この高揚感で自分はさらに上に行ける感じがくる。
だが、日本はもう戦場がない。日本に居続ければ、自分は一生六尺に終わる。
真に憎いものである。
「口惜しきなり!!」
長政が吼えた。
槍の鉾先が刀をぶつけて、火の粉を爆せた。長政は時に敵を翻弄し、時に相手を追い払い、相手の武器を巻き上げたり、撃ち落としたりと、無人の域を入ったようだ。
(少し強い者はねぇのかよ?)
そう思いながら、長政は人の両目の間に槍で突き、槍の刃先が頭を貫くと思ったが、前の男は急に腰を折れ、人体はほぼ90度のような奇妙な角度で槍を躱した。
(ほう、手練れか)
いい、相手が強くて強いほど、戦は面白くなる。
ここはやっぱり違う!
長政の反応が素早く、槍を横にして、下へ叩き込んだが、男も抜刀し槍を止め、そしてその流れで右側へ槍から逸らし、長政との距離が一気に縮んだ。
(これは面白い!)
「強き者よ!我が名は……」
興奮している長政は名乗る所に、男の刀はもう長政の首へ振りかけてきた。
(まずい!)
無意識にそう思った途端に、長政は手を伸ばして、拳で男の顔へ殴ってきた。顎に拳骨一発で食った男はそのままに意識を失い、倒した。
気を緩めようと思う処に、また二人の男女は長政へ槍が投げて来た。
(チッ!犬鑓か!)
同時じゃ躱せない、薙ぎ払わない。どうする?長政は焦ったところに、
「これをあっても面白いとは思ってござるか?」
白光一閃。
飛んできた二つの犬鑓が一刀両断された、切り落とした。
「谷川の旦那……?」
そこにいるのは、猪切先で梨子地肌の地肌と三本杉の刃文を持ち、先反りの菖蒲作り、しなやかさと感じたが、したたかさも感じる、銀色の蛇を操る如く太刀を使っている谷川角兵衛です。
「まずは槍」
角兵衛は冷たい声で語った。
そして、白光は犬鑓を投げてくる男女を巡って、また一閃した、男女たちはまだ何かあったか充分に理解していなかった内、眼が白目となり、直ちに倒してしまった。
「大丈夫、峰打ちじゃ。殿の下知でござる故」
じゃが、戦に人の殺せないようにと、今考え見れば誠に無茶な命令でござる。と角兵衛を言った。
「『約定違反』しておらぬか?山田殿」
「それはない!一人でも殺した事がない」
「ならばよし」
手前は加勢でござる。と角兵衛を言った。
「殿の命じゃ。殿はかの日ノ本人のことを掴んだご様子でござる」
「マジかよ!それは良かった!」
「その故、我々はここで武威を示して、双方は殿の仲裁を呑ませるようになければいけぬ」
それより、と角兵衛は言った。
「これでお分かりでございますか?山田殿、これは『真の合戦』じゃ。一人で単方面で相手をやっつけることではなく、貴方も人に討たれるやもしれませぬ」
それでも、貴方は合戦を面白いと思うか?
「ああ」
長政は汗が顔にまみれだが、笑っている。
「六尺として終わりたくない。俺は戦で名を挙げて、この世に俺の『存在』を刻み込むのだ!」
なるほど。長政の顔を見た角兵衛はすぐに分かった。
(この御仁は、多分もう戻れないだろうな……)
「ならば、今殿のために働けば良い!さすれば、有馬家中は貴殿の名を覚えるに相違ありますまい!」
「おう!」
二人は屍、血と怒声まみれな戦場に驚くほどの気勢を放ち、獰猛な顔で、大肚も新港の人々は二人の勢いに推されて、足を引いている。
「お願いじゃ!申せ!そのハラタという者は、我々は千里を越えて探したい者じゃ!」
外国との通商?そんなことは今二の次じゃ。彼奴はもしここにいたら……!
「あの人は……」
ユイラ―の通訳で、あの人はゆっくりと話している。
「ハラタさんは……『水争いで戦など愚かな』……と、『この争いを終わらせる』と……」
「あいつはどうするつもりじゃ?」
「ハラタさんは……自分は『タイコウ』のようなやり方で戦を終わらせると……」
(タイコウって……、まさか太閤殿下か!?)
「師匠はやっぱりこの地にいますね。」
ユイラ―は通訳しながらそう確信した。
だが、晴信は別のことを考えている。
まさか、「あの人」は今儂と同じことを考えているか……?と晴信が閃いた。
「どこか?あいつはどこにおる?」
眼が回りを見回っている。殺し合っている人々、倒している血まみれな仏、散りばめた武器、赤に染める川、どこにもない。あいつらしい人がない。
「わ、分かりません……」
だが、晴信の視線は一点に集中した。
あれは、川の向こうに聳える小高い丘だ。
「……見えるか?ユイラ―」
この旅に、この島に人たちの視力はどれだけ凄いかよく見ている。例えここは丘と一里くらい離れているとしても。
「はっきりではないが……『何か』あると思います。」
「それだけで良い」
晴信は背中に背負う物を下ろして言った。
「儂は計画を実行するのじゃ。」
あれは鉄砲だ。晴信は熟練に早合を銃口に入れ、カルカでそれを押し込む。
その時、数本の矢が晴信を狙って飛んできた。
「!」
だが、その矢をこっちから飛んでくるものを落とした。
「有馬様の邪魔をさせない!」
撃ち落としたのは、ユイラ―の短弓を放った矢だ。
「射撃するまで時間稼いでくれ!頼む」
「分かりました!」
槍と矢を撥ねながら兵士の足を狙って、突きで相手の行動能力を奪う、ミゲルの回りに足がやられて、呻いている男が数多いる。そんな優雅で惨めな戦い方だった。
(頼むよ、従兄弟殿……)
デウス様は、こんな哀れなものを増えることを望まないだろう。とミゲルの心にそう呟いた。
火縄に火をかけ、銃身を構えると、また矢が飛んでくる。
(速い!これは避けられない!)
と思ったところ、一本の手はなんと高速で飛んでくる矢を掴めて、そしてすぐにその矢を弓にかけて放して、その兵を倒した。
「ユイラ―!!」
矢を掴んだユイラ―を痛苦の色を顔に浮かんだが、それを耐える顔で言う。
「私は大丈夫です。どうか……修理様、どうかこの戦を終わらせてください!」
その眼差しは真摯と強い意志を感じる。
「ええ、必ず。」
晴信はそう答えて、丸みがある肥後筒の銃口を天に向いて構えた。
パンーー!!
パンーー!!
蒼穹に放った鉄砲は酷い煙と爆音をとともに発し、大肚と新港、両陣営の敵味方問わずその音と煙でびっくりして、戦闘ところが、動き自体が止まってしまった。
まるで時が止まったかのようだ。
この時の鉄砲は命中精度がそれほど高くない。人数集めて弾幕を作らなければ確実に戦争中に役に立たないのである。しかし、その爆音は人を怖がらせ、煙も多く敵の視線を塞げる、そして何より、音から出た「威力が大きく、簡単に人を殺せる」恐怖感は人に与えられる。
だが、銃声は「二つ」。
「やっぱりおりますのう……」
山彦でも聞き間違いでもなく、「あの人」がいる、と銃声を聞いた時晴信は確信した。
「遠からん者は音に聞け、近くば寄って目にも見よ!我こそは、西海の海賊、藤原純友の孫、藤原直澄から十九代目、肥前高来郡主、日野江城主有馬修理大夫晴信なり!」
「遠からん者は音に聞け、近くば寄って目にも見よ!我こそは、肥前長崎住人、原田孫七郎なり!あそこにいる有馬修理大夫殿と同心致す!双方から敬告致す!我々の取次により、仲裁で仲直り、この合戦を終わりにせよ!そうならないと、鉄砲の筒先、其方らに向うと思え!」
どこから伝わってきた大音声で、晴信はほっとしました。
「ここにいたのか、原田殿……」
晴信とともに、同時に鉄砲で大肚と新港を威嚇したのは、太閤殿下の世だった時、日本を代表して、高山国へ招諭した名人、原田孫七郎である。
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