第3話 互いの目的
魔王はある日突然現れた。
そして、魔王が率いる魔王軍との戦争が始まってから、すでに25年。その間に各国の軍のあり方は大きく変わった。
無尽蔵に湧いてくる魔王の軍勢は
故に、今までの戦争で用いられてきた、近接武器を持った歩兵部隊ではまともに戦えず、また弓や魔法による遠距離攻撃部隊でも、その圧倒的な数により距離を詰められ全滅してしまう。
しかしその恐ろしさの反面、呪塊の知能は低く、近くの生物に対し無警戒に近づき攻撃しようとする性質があった。
それを利用し、部隊を少数に分け、各方面から攻撃し、呪塊の集団を分散させて対処する方法が考案されたのが軍の変革の始まりだ。
これにより、防備を固めて仲間を守りつつ戦う戦士、魔法による遠距離攻撃を行う魔導師、呪いの浄化や結界での守りを担う神官など、役割の違う者同士で構成されたパーティーと呼ばれる小部隊が軍の主流となったのである。
つまり、勇者パーティーとはアイアルド王国軍の最精鋭部隊であり、その立場はあくまで軍属ということになる。
その結成以来、勇者パーティーの活躍はめざましく、魔王軍の『第4次大侵攻』を民間人の犠牲無く食い止めたことを代表に、数十回にわたる魔王軍の撃退、国内のいくつもの犯罪組織の壊滅、火山に住まうドラゴンの暴走の鎮静化とその功績は
つい、1ヶ月前には魔王の本拠地である魔王城まで攻め込み、討伐こそ成らなかったが、初めて生きて帰還するという快挙を
今まで、各国の多くのパーティーが、あるいは大軍が攻め込み、誰1人として生還できなかったことを考えれば、それは十分に偉業と言えるだろう。
そんな、誰もが憧れる英雄たちの内輪揉めと国の陰謀を聞かされ、さらにパーティーメンバーの1人がイメージとはかけ離れた人物であることを見せられたテルルは、げんなりしながらもキイチに質問しようとする。
「ところで、ドドグラ様は――」
「キイチでいいぞ。様もいらねえ。逃亡犯って分かったやつに敬語とか律儀なやつだな」
質問を
自分の現状と本性を知ってもなお、怖がらずに話しかけてくるテルルのことを、キイチが不思議に思っているのがテルルにはわかる。
「で、ではキイチさん。キイチさんはこれからどうするつもりなんですか?」
「魔王をぶっ殺しに行く」
即答された唐突な内容にテルルは唖然とする。
国外に逃げるでもなく、裏切った王国に復讐するでもなく、なぜ魔王討伐の話がここで出るのか。今後の目的としてはあまりに
「な、なぜ急に魔王?」
「ん?まあ、その、何だ?…あぁ、アレだ、アレ。なんかすげえ良いことすると王様が感謝して許してくれるとかいうやつ」
「
「そう、それそれ」
どう見ても何かを誤魔化すための取って付けた理由としか思えない。
そもそも、キイチは濡れ衣を着せられて追われているのだから、恩赦を求めること自体おかしな話だ。
もっと言えば魔王討伐で恩赦という案には無理がある。
「でも、魔王を倒すのはキイチさん1人ではできないんじゃないですか?勇者パーティーの皆さんと戦ってもダメだったんですよね?」
「まあな、5人がかりでもてんで歯が立たなかったわ。オレもアレスも死にかけたし」
あっけらかんとした様子で話しているが、その内容は絶望的に思えた。
「やっぱり魔王ってものすごく強いんですね。アイアルド王国最強の勇者様たちでも勝てないくらい……」
アイアルド王国は戦神を主神として崇めている国であり、強い戦士を育成することに長け、周辺国家の中では最大の軍事力を持つ。
その軍事国家の最精鋭部隊である勇者パーティーでも、まるで勝てないほどの力を持つ魔王。
日々、攻め込んでくる呪塊の数も一向に減ることはなく、いずれ自分たちは魔王軍によって滅ぼされてしまうのではないか。
そんな、不安が顔に出ていたのか、キイチは励ますような態度に変わる。
「まあ、そんな怖がるなよ。お前みたいな一般人は毎日気ままに過ごしてりゃいい。魔王の殺し方で悩むなんざ、強いやつのやることだろ。魔王をぶっ殺す方法だって、一応当てはあるしな」
今まで考えなしの話ばかりしていたキイチにしては、意外な発言が出てきた。
「そ、そうなんですか?魔王を倒す当てっていったいどんな?」
「それは秘密。それより今度はお前の話をしようぜ」
そう言うと、キイチは身を乗り出して顔を近づけてきた。ナイフのような角が一緒に近づき、反射的にテルルは後ろにのけぞる形になる。
「さっき、勇者パーティーに相談したいことがあるって言ってただろ。
内容は物騒だが、キイチの言っていることは的外れではない。確かに、テルルの目的はある人物を
「お前の相談事ってのは何よ?」
「そ、そうですね。キイチさんにもわかりやすく言うなら、ええと……」
改めて自分の相談したい内容を思い出すと、説明が少々難しい。しばらく考えた後、テルルは答える。
「うちの神殿にいる、セクハラロリコンドすけべ上司をどうにかしてほしい、ですかね」
「…何だよ、その変態の詰め合わせセットみてえな上司は」
テルルの回答にキイチは呆れ顔でツッコミを入れた。
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