第25話

私が座ると、瀬戸くんも隣に座った。



真隣に座っているから、お互いの腕が触れ合う。



瀬戸くんは相変わらず表情を変えずにいるけれど、私はずっとドキドキしっぱなし。



緊張と、恥ずかしさと、少しの嬉しさが入り混じって、何だかよく分からなくなる。






「どうしたら良いか分からなくて、困ってるね。」





見透かしたように瀬戸くんは笑う。



もう、そんな事言うから、また困っちゃうよ。




だって本当に、どうしたら良いか分からないんだもん。





こんなに瀬戸くんと喋った事だってなかったし、私の困ってる声が好きとか、不思議な事言い出すし。




ただでさえ頭悪いのに、こんなこと、理解出来るわけがない。







「さっきのワルツ、もう一回弾いて。」



「え、でも・・・、」







さっき弾いたワルツ。



あの時は教えてもらった直後だったから、なんとか弾けたけれど、少し時間が経っちゃったし、もう弾けないよ。



それに、正直、覚えてない。



やっぱり私は、暗記が苦手だと、つくづく思う。





「大丈夫。牧野さんなら、弾けるよ。」






瀬戸くんの笑顔を見ると、出来ないと思っていても、出来る気がしてくる。





本当に、不思議な人。







「ほら。」






そっと、鍵盤に手を添える。






大丈夫。




瀬戸くんが教えてくれたんだもん。




きっと、弾ける。

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