第23話

「ほんと、牧野さん、やばいね。」




また、やばいって言った。


その言葉の意味が、分からない。





「あの、な、何がやばい、の?」





そう聞くと、後ろから抱きしめていた瀬戸くんの腕が解けて、前を向かされる。



向き合うような体勢のまま、瀬戸くんの綺麗な手が私の頬を覆う。





「声、だよ。」



「こ、声?」






さらに、よく分からなくなった。



私の声って、そんなにやばい声をしているの?


やばい声って、何?






「せ、瀬戸くん、ちょっと、よく分からないんだけど・・・。」





瀬戸くんの前髪の隙間から覗く瞳が、私を捉える。



その瞳を、困ったように見つめる。






「ああ、ほんとたまんないな。」






包まれた頬を、優しく撫でられる。



それが少しくすぐったくて、顔を背けようとするけれど、反対の手で動きを封じられる。






「あ、の、瀬戸くん、」



「もっと、聞かせて。」



「な、何を、」



「声。」






声って、一体・・・。






「僕、君の困った声聞くの、好きなんだよね。」






その言葉に、キョトンと瀬戸くんを見る。



わ、私の、困った声?




頭の片隅にもなかったことを言われて、なんだか付いていけない。




瀬戸くんは、何を言ってるの?





「牧野さんの困った声聞くと、もっと困らせたくなる。」






にっこりと、意地の悪い笑顔でそう言う瀬戸くん。




困らせたくなるって・・・。



ちっとも何言ってるか、分からないよ。

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