第21話
「ほら、牧野さん、僕を見て。」
「え、ちょ、瀬戸くんっ!」
「黙って。」
「んっ。」
瀬戸くんの顔がすぐ近くまで迫る。
私の頬を包む右手の親指が、喋らないでと言うように唇を塞ぐ。
もう少しで、お互いの唇が触れそうなところで、瀬戸くんは近付くのをやめた。
思わず、キスされるのかと思った。
安心したような、残念なような、よく分からない気持ちが混ざり合う。
けれどこれって、長野先生から見たら確実にキスしているように見えてるはず。
実際キスなんて全然していないけれど、瀬戸くんはまるで長野先生に見せつけるように、キスのふり?をする。
「わ、分かった。その代わり、二学期の成績ではせめて、クラス平均は超えろ。」
長野先生の言葉と共に、近かった瀬戸くんの顔が離れた。
そしてそのまま瀬戸くんは私を後ろから優しく抱きしめた。
「クラス平均?何言ってるんですか。僕が教えるんだから、余裕で満点取れますよ。」
「ま、満点!?」
ぎょっとして、勢いよく振り返って瀬戸くんを見る。
クラス平均すら取れない私が、満点だなんて取れるわけがないよ。
数学は、本当に苦手なのに。
瀬戸くんは私がどれだけ数学苦手なのか、知らないからそんなことが言えるんだよ。
でも、振り返って見た瀬戸くんの顔を見て、ああ、本気だと思った。
あまりにも自信に溢れた笑顔だったから。
その笑顔には、私は逆らえない。
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