第20話

「瀬戸、そこをどけ。」





長野先生の声が、私の恐怖を煽る。


瀬戸くんのシャツを握りながら、俯いて目を瞑る。




明日からはちゃんと、補習行くから。



だから、今日だけは見逃してと思う。







「先生。」






ふわりとした瀬戸くんの声が聞こえて、とても安心する。



そっと目を開けて瀬戸くんの顔を覗き込む。




なんとも言えないくらいに、意地の悪い笑顔をした瀬戸くんと目があって、少し驚いた。






「数学なら、僕が教えますよ。」



「は?」

「え?」






長野先生と私の声がハモる。




先生も私も、意味が分からないといった顔で、瀬戸くんを見つめる。





「牧野さんは、体で教えないと、覚えられないから。」



「え、え、瀬戸くん?」





ぐいっと手を引かれて、瀬戸くんの胸に収まる。



左手で腰を支えられて、右手で私の頬を包む。




触れられているところが熱くて、どんどん体温が上がっていく。





「か、体でって・・・。」





動揺したように長野先生が言葉を落とす。



長野先生だけじゃなくて、私だってかなり動揺している。



何でこんなことになっているのか、きっと一番疑問に思っているのは私だと思う。






「ね?牧野さん。」




突然、同意を求められても困る。




ね?と言われても・・・。





めいいっぱい頭で考えてみるけれど、やっぱり答えらしい答えは出てこなくて。




火照る体が、私の考える力を、どんどん奪っていく。

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