第19話

「牧野、お前は今から指導室に来い!俺とマンツーマンで数学のお勉強だ!!!」



「い、いや、それはちょっと、」



「補習をサボっておいて、拒否るのか?!」





うっと言葉に詰まる。



確かに、ちゃんと補習に行っていれば、先生と二人きりで数学の勉強なんてしなくて済んだ。



悪いのは私なのも分かっているけれど、長野先生と二人きりだなんて、死んでも嫌だ。



そもそも数学すら嫌いなのに、嫌いな数学と嫌いな長野先生と時間を共に過ごすなんて、考えただけでも、気分が悪くなりそう。





「ほら!牧野!早く来い!!」






ズカズカと音楽室に入って来て、私の手を掴もうと、長野先生の手が伸びて来た。



少し怖くなって、思わず瀬戸くんの後ろに隠れる。



ギュッと瀬戸くんのシャツを掴む。



何だか変な事に巻き込んでごめんね、と心の中で瀬戸くんに謝る。



瀬戸くんはきっと、ピアノを弾きに音楽室に来ただけなのに、私と会ってしまったばかりに、こんな事になってしまって、本当に申し訳ない気持ちでいっぱいになる。





けれど、長野先生と二人で数学を教わるのは、何が何でも嫌だ。




だったら今、瀬戸くんを巻き込んでしまった方がマシだと思った。





握ったシャツに、さらに力を込める。




瀬戸くん、困ってるよね。




でも、お願い。



助けて。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る