第16話

「僕ね、すごく耳が良いんだ。」





耳が、良い?



一瞬、どういう事がわからなくて、首を傾げた。


そんな私を見て、少し楽しそうに瀬戸くんは笑う。






「他の人より、よく聞こえるんだよね。いろんな音や声が。」






耳が良い事と、私の事を知っているのとが、どう関係しているのか分からなくて、傾げた首を戻す事ができない。



一体瀬戸くんは、何を言ってるんだろう?






「朝、ここにいたら聞こえたんだ。補習があるって、友達と喋ってたでしょ?」





そう言われて、今朝の事を思い出す。



そういえば、由奈とそんな会話したな。




え、まさか、あの会話が聞こえてたの?







「あ、あれってまだ学校の敷地に入る前の会話だよ?」



「うん、そうだね。でも、僕には聞こえるんだよ。」







確か音楽室は校門の一番近くの教室。




由奈と会ったのは、校門から十五メートルくらい離れた所らへんだった。



結構離れていると思うけど、瀬戸くんには聞こえるんだ。



す、凄いな。





あんな遠い所の会話が聞こえるだなんて。




やっぱり瀬戸くんって、不思議。




知れば知るほど、謎が増えていくみたい。






「授業中も、寝てるんじゃなくて、本当はちゃんと起きてるんだよ。」



「え?そ、そうなの?」



「僕、耳は良いけど、目は悪いから。授業は耳で聞いてるんだ。その方が、集中出来るしね。」






耳で授業を聞くだなんて、本当にすごいね。




目で見て、耳で聞いて、授業受けてても、私成績悪いのに。




そういえば、長野先生が答えを間違えて、瀬戸くんが正解を教えた時、瀬戸くんは黒板見てなかったのに、すぐに長野先生の間違いに気付いたよね。



あれって、もしかして。





「あの、もしかして、黒板の書く音で、何書いたか、分かる?」



「うん。大体は分かるよ。」



「え!す、凄いね。」





本当に、凄い。



瀬戸くんって、やっぱ凄い人なんだね。



先生の話す声と、黒板の書く音を耳で聞いて、授業受けてるんだ。




見た目は、爆睡しているようにしか見えないのに。

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