第14話

本当は、気付きたくなかった。



この気持ちが何かを。


瀬戸くんに対するこの感情が、一体何なのか。






もし、彼に伝えたらきっと、困ってしまうんだろな。



だから、言えない。






ぎゅっと胸が締め付けられる。




こんなにも近くに瀬戸くんがいるのに。




少し手を伸ばせば触れられる距離に、瀬戸くんはいるのにね。




怖い。



瀬戸くんに嫌われることが。






「牧野さん?」






俯いている私に、少し不安げな瀬戸くんの声がする。


返事をしたいのに、苦しくて声が出せない。






風が、私の肩まである髪をなびかせる。





静かすぎる音楽室に、優しい風の音が聞こえる。



風の音だけじゃない。



葉っぱが揺れる音、遠くで誰かが喋ってる声、車の音、電車の音。





たくさんの音が、聞こえてくる。





こんなにもこの世界は、音で溢れているんだと、気付く。






「いろんな音が、するでしょ?」



「え?」





俯いていた顔を上げる。



心の声が聞こえたのかと思って、ちょっと焦った。







「窓を開けてると、いろんな音が聞こえるんだよね。」






そう言うと、瀬戸くんは窓の方を見つめた。



窓から流れ込んでくる風が、瀬戸くんの前髪をふわふわと揺らす。




その前髪の隙間から見える瞳は、いつもよりも優しい。




変わらず、鳴り続ける心臓の音。



隠したくても、隠せない鼓動。






たまらなく、好きだと思う。





瀬戸くんのことが好きだと、体が、心が叫ぶ。




けれど、この行き場のない想いを、どうすることもできない。






私に、もっと勇気があったらな。




そうすれば、貴方にこの想いを伝えられるのに。

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