第13話

「凄い、瀬戸くん!間違えずに弾けたよ!」





若干危なかった所もあったけれど、一回も間違えずに弾けたことが嬉しくて、鍵盤に向けていた顔を勢いよく上げて、瀬戸くんがいる方を見た。




右隣にいた瀬戸くんと、しっかり目が合う。




長めの前髪から覗く瞳が、優しく私を見つめている。






「うん、ちゃんと聞いてたよ。ほんと、上手だった。」



「あ、ありがとう。」






目が合ったのと、褒められたので、恥ずかしくて再び鍵盤に視線を戻す。






瀬戸くんが教えてくれたのは、とても簡単なワルツだった。




右手でメロディ、左手でリズムを刻む。





左右で違う指の動きをするのは、簡単なことじゃない。



けれど、上手く弾けたのは、間違いなく瀬戸くんのお陰。





弾くのも上手いし、教えるのも上手いだなんて、やっぱり瀬戸くんは凄いな。



何をやらせても、きっと出来ちゃうんだろうね。



授業中寝てても、成績はいつもトップだし。



何気にスポーツも出来ること、私知ってるよ。




走るのも早いし、サッカーやバスケなんかも上手。






ずっと、見てきたから。




同じクラスになる前から、ずっと。






彼から溢れる独特の雰囲気。



いつもぼんやりしてて、何考えてるのか分からなくて。




どんな話をすれば、笑ってくれるのかなとか、どうすれば、もっと近付けるんだろうって、ずっと思ってた。





同じクラスになったのも、本当は凄く嬉しかった。



もしかしたら、仲良くなれるかもしれないって思ったから。



けれど、瀬戸くんは教室では寝ていることが多くて、なかなか話しかけづらくて。



登下校中も何度か見かけた事はあったけれど、いつもイヤホンを付けてるから、声をかけられなかった。






でも、違う。


声をかけられなかったのは、ただ、私に勇気がなかったから。



今日だって、私から話しかけたんじゃない。



瀬戸くんが私に気付いて、声をかけてくれたんだ。

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