第12話
「うん、上手。もう弾けると思うよ。」
重なっていた手が離れて、少し寂しくなる。
ひやりと風が吹いて、私の手の甲をかすめると、さっきまで触れていた瀬戸くんの体温を奪っていく。
それがたまらなく寂しくて、何だか泣きそうになった。
けれど、ここで泣いてしまうと、きっと瀬戸くんを困らせてしまう。
そんなの嫌だと思って、ぐっと堪えた。
「弾いてみて。」
自分の手を、ぼんやりと見つめる。
本当に、弾けるのかな。
結局、瀬戸くんにドキドキしすぎて、教えてもらったこと、あまり覚えてない。
それでも自信満々に微笑む瀬戸くんを見て、どうしてだか出来そうな気がしてくる。
そっと、鍵盤を押す。
ピアノの音が、音楽室に響く。
ふいに、瀬戸くんを見ると、とても優しく笑っていた。
その笑顔に、思わず私も笑う。
“大丈夫だよ”と、瀬戸くんの心の声が聞こえた気がして。
ゆっくりだけど、教えてもらったように、鍵盤を押していく。
一つ一つの音が、風に乗って、音楽室に響いていく。
自分でもびっくりするくらい、上手く弾けてることに、だんだん嬉しくなってくる。
あんなに難しかったのに。
瀬戸くんが言うように、体で、指で覚えたから?
勝手に、指が鍵盤を弾いていく。
これが、頭で覚えるんじゃなくて、体で、指で覚えることなんだと、実感する。
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