第11話
「うぅ・・・、難しい。」
何度やっても、間違える。
特に、利き手じゃない左手を使うのが難しい。
少し、心が折れてきた。
今だに、間違える度に笑う瀬戸くん。
もう、本当に笑いすぎだし。
もともと私は暗記が苦手。
覚えることは苦手で、数学の公式も全然覚えられないんだよね。
数学といえば、私、補習行かなきゃいけないんだった。
瀬戸くんを見つけて、すっかり忘れてしまっていた。
けれど、今から向かったところで遅刻確定だし、どうせ怒られるなら、今は瀬戸くんと一緒にいたい。
「牧野さんって、暗記するの苦手だよね。」
「え?」
何でそんな事知ってるんだろうと、瀬戸くんの方を見ると、至近距離で目が合って、咄嗟にそらした。
くすっと笑う瀬戸くんの声がしたけれど、恥ずかしくて瀬戸くんの方を向けない。
「頭で覚えようとするから難しいんだよ。」
そう言うと、右隣にいた瀬戸くんは、私の後ろに回って、鍵盤の上にあった私の手に、そっと自分の手を重ねた。
「え?せ、瀬戸くん?!」
後ろから抱きしめられるような体勢のまま、瀬戸くんの細くて長い手が、私の手をすっぽりと包む。
手に、背中に、瀬戸くんの体温を感じる。
「体で、指で、覚えたらいい。」
耳元で聞こえる声。
さっきよりもはるかに距離が近くて、重なり合う手が、熱い。
ふわりと吹き抜ける風は、とても気持ち良くて、夏の暑さなんて全然感じないのに、瀬戸くんの体温と、自分の体温が触れて、熱を持つ。
熱い。
手が、背中が、耳が。
瀬戸くんが側にいると、私はおかしくなる。
この感情が、何なのか分からないなんて、嘘だ。
私はとっくに、この感情が何なのか、気付いている。
隣の席になってから、気になって仕方なかった、この気持ちを。
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