第9話

「何してるの?そんなところで。」





その声に、はっとしたように顔を上げた。



私が一人でどうしようかと考えているうちに、瀬戸くんはいつの間にかドアの側に来ていて、しゃがみこんでいる私を、不思議そうに見ていた。




うわぁと思って、勢いよく立ち上がる。




立ち上がると、近くに瀬戸くんの顔が見えて、思わずドキッとする。




「あ、牧野さんだ。どうしたの?」





目の前に瀬戸くんの顔がある。



瀬戸くんって、思ってたよりも背小さいんだ、なんて呑気に思いながら眺めていると、すっと顔が離れた。



さっき顔が近かったのは、少しかがんでいたからだったみたいで、今見える彼は、すらっとしてて、とても背が高い。



思ってたよりも高い背に、少し驚いた。





「おいで。」





ふんわりと笑った彼は、いつもと違う雰囲気で、ドキドキが止まらない。



勝手に先走るようになり続ける心臓。



自分の身体に響くその音が、どうか瀬戸くんは聞こえないで欲しいなと、小さく祈る。





ゆっくりと音楽室に入った。



とても風通りが良くて、じっとしていればそんなに暑くない。





言われたわけでもないけれど、音楽室の黒板の前に置かれたグランドピアノの前で立ち止まった。



さっきまで、このピアノの音を聞いていたんだね。



あんなにも、ピアノの音を聞いて心地いいと思ったことはなかった。




そう思ったのはきっと、瀬戸くんだったから。





瀬戸くんが奏でるピアノの音だったから。

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