第8話

瀬戸くんの弾くピアノの音色に合わせるように、私の心臓の音も響く。



ドクンドクンと、さっきから鳴り続いていて、少しだけ苦しい。



でも、走った時みたいに、本当に息が上がるような苦しさはなくて、むしろその苦しさが気持ち良い。



何なんだろう。


よく、わからない。



言葉にできない感情。





それは、まるで・・・。







ピタッと、ピアノの音が止まる。




びっくりして、さっき隠れたみたいに、壁に背中をくっ付けてうずくまる。




もしかして、見てるのバレたかな?



別に、悪い事をしているとこを見たわけでもないけれど、何となく見ていたことを知られたくなかった。


声もかけずに見ていた事を知られるのも、何だか恥ずかしいし。





ピアノの音が聞こえなくなった代わりに、ゆっくりドアに近づいてくる足音。



え?こっちに来る?



それは、非常にまずい。


こんな所にいるのを瀬戸くんが見たら、こっそり私が見ていた事に気が付かれてしまう。



どうしようと無駄にキョロキョロと辺りを見回してみるけれど、隠れる場所もない。



これは、たまたま通りかかったを装って・・・。



いや、音楽室方面に用事なんてないしな。



ましてや今は夏休み。




音楽室に用事があるなんて、吹奏楽部くらい。




でも今日は吹奏楽部は休みなのか、学校以外で練習があるのか知らないけれど、誰もいない。




吹奏楽部員でもない私に、音楽室に行く用事なんて、何一つない。






ああ、どうしよう。



頭を抱えて、どうすれば良いのかぐるぐると考える。




けれど、何も思いつかない。



どうして私の頭はこんなにもバカなんだろう。





数学だって、全然理解出来ないし。




自分の頭の悪さに、げんなりする。

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