第7話

この綺麗な音色を弾き出しているのは、私の隣でいつも授業中寝ている男の子。



先生にどんな問題を当てられても答えることができてしまう、成績優秀の瀬戸くんだった。




瀬戸くんって、ピアノ弾けたんだ。



そんな事を、ぼんやりと考える。



そもそも、起きて何かをしている瀬戸くんは、初めて見たような気がする。



私が知ってる瀬戸くんは、いつも寝ているから。



寝てる姿以外を、あまり見た事がない。






ふいに校舎に、チャイムが鳴り響く。


そのチャイムの音が、ピアノの音をかき消すよう聞こえて、少し嫌な気分になった。



それと同時に、補習が始まる時間だと思ったけれど、起きている瀬戸くんを見ていたくて、その場から離れられない。




また、長野先生に何か言われそう。




それでも、ピアノを弾く彼を見たいんだから、仕方がない。




チャイムが鳴り終わると、風に乗って、瀬戸くんが奏でるピアノの音が響き渡る。




その音色が、とても心地いい。



何だか、安心するような、私の心を優しく包み込んでくれるような、そんな気分になる。



ピアノの音を聞いて、そんなことを思ったのは初めて。




それほど、彼の手によって生み出されるこの音が、綺麗で優しくて温かいんだなと思う。






どんな顔をして弾いているのかは、わからない。



私が見ているのは、後ろ姿の瀬戸くん。





それでも、素敵だなと思った。






音が、後ろ姿が、私の耳と目をおかしくさせる。



私の聴覚と視覚は、瀬戸くんでいっぱいだ。





やっぱり、もっと瀬戸くんの事が知りたい。





どうしてそんなことを思ってしまうのか、よく分からないけれど、みんなが知らない瀬戸くんを、私は知りたい。

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