第6話

優しく、温かい音色。



ピアノの事なんて、何もわからないけれど、そんな私でもとても上手だと思う。


間違いなく、今まで聞いたピアノの音色よりも、遥かに上手。





その音に、引き寄せられるように足が動く。





聞こえてくる音が、少しずつ大きくなる。





先に見えるのは、音楽室。




この学校で、ピアノが置いてあるのは、ここだけ。




間違いなく、この音は、あの音楽室から聞こえてくる。






そっと、気付かれないように音楽室に近付いた。




少し開いたドアの隙間から、こっそりと中を覗く。



黒いグランドピアノの前に腰掛ける、人影。





「・・・あっ。」







思わず、声が漏れてしまった。




うわっと思って、咄嗟に廊下の壁に背中をくっつけて隠れる。


これ以上、声が漏れないようにと、両手で口を覆う。



声が聞こえてしまったかなと思ったけれど、鳴り続けるピアノの音に、聞こえてないんだなと思って少し安心した私は、再び音楽室を覗き込んだ。




キラキラと太陽の光が窓ガラスに反射して、音楽室を照らしている。



開いている窓から入り込んだ風が、カーテンをひらひらと揺らす。



まるで、彼のピアノの音をさらうように。


私に、その音を運んでくるように。






後ろ姿でも、直ぐに誰か分かった。



少し乱れた黒い髪が、ピアノの音が鳴るたびに、小さく揺れる。



その姿に、なぜか心臓がドクンと大きく跳ねた。

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