第5話

「じゃねー、音羽!長野にまた意地悪されないようにね!」



「い、意地悪って・・・。もう、早く行きなよ。」





あはは!と笑いながら、由奈は体育館がある方へ向かって行った。



私はしぶしぶ校門をくぐり、補習が行われる校舎の方へ歩く。




ああ、本当に嫌だな。




夏休みなのに、全然楽しくない。



高校生の夏休みなんて、遊びたい真っ盛りなのに。




どうして、補習なんか・・・。




私が悪いのは十分理解しているけれど、やっぱり嫌だなと思う。








太陽が私を容赦なく照りつける。




さすが七月の下旬。




梅雨も明けて、夏本番になってきた。





駅から学校まで、そんなに距離はないのに、それでも歩いてるとジワリと汗が滲んでくる。




こんな日はクーラーの効いた部屋に閉じこもるのが、一番良いんだけどな。




何で私、学校に向かってるんだろう。





歩きながらそんな事を思って、小さくため息を漏らす。






長野先生は、授業中やたらと私に当ててくる。



それは、隣で眠る瀬戸くんが原因なのかもしれないけれど、それでも毎回当てられるから、うんざりしてくる。




補習にはきっと、瀬戸くんはいないだろうけど、今日も当てられるんだろうなと思うと、ため息しか出ない。






「・・・はぁ、暑い。」






太陽の光を遮ってくれる雲は一つもなくて、真っ青な空が真上に広がる。




夏独特のぬるい風が頬をかすめて過ぎて行く。






そんな風と共に、ふわりと何かが耳に届いた。



思わず、立ち止まって耳を澄ます。






「・・・ピアノの、音?」






風に乗って、耳に入り込んでくる。




ふわふわと舞って、私のところに届いてくるその音に、どういうわけか引き寄せられる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る