第6話
「は?何言ってんの?」
あー。
まずいまずいまずい。
何で私ってば口に出してしまったのか…。
でも口に出してみてやっとあの違和感の答えが分かった。
水野くんのあの爽やかスマイルは、仮面を被ったような顔なんだ。
「おい、どういう意味だよそれ。」
完全に爽やかスマイルの仮面は取れて、さっきゴミ箱の前で見せていたあの冷めきった顔が、私を睨んでいる。
きっとこれが、素の水野くんだと思う。
いつも見せる顔は作り物で、本当の水野くんは、今目の前にいる。
「いや、特に意味はなくて…、」
「ふーん。」
「あ、あの!何でも言う事聞いてくれるんですよね…?」
「…あぁ、もちろん。」
地雷を踏んでしまったからか、とてもご機嫌が斜めだ。
悪いのは私なのか?と一瞬思ったけれど、いや違う!と心の中で否定する。
「何すれば良い?」
急かすように水野くんが言うけれど、実際にして欲しいことなんて何もなくて。
強いて言うなら…
「て、手を…離して欲しい、です。」
「え?」
ずっと掴まれていた手を離して欲しかったんだよね。
今一番、水野くんにして欲しいことはこれだ。
キョトンとした顔で私を見る水野くんは、状況を察したのか、私の腕を解放してくれた。
やっと自由になった腕で、持っていた肉まんの袋を抱え込む。
「ちょっと待って。まさか今のがして欲しいこと?」
「え、そうですけど…」
「いやいや、もっと他にあるでしょ?」
「そんな事言われても…」
して欲しい事を言ったのに、何か違ったらしい。
だって、他に思いつかなかったんだもん。
そんな事よりも私は、腕の中に抱え込んでいるこのホカホカの肉まんを早く食べたい…。
そんな事を考えていると、最悪なことに私のお腹の虫が爆音で鳴り響いた。
咄嗟にお腹に手を当ててみるけれど、発された音をかき消すことなんて出来ず、目の前にいた水野くんに聞かれてしまった。
「あっ、お、お腹空いてて…。ごめんなさい。」
何これ。
めちゃめちゃ恥ずかしいんですけど。
もう、今日は本当に災難だよ。
穴があれば入りたいとはこの事を言うんだね、なんて…
「ぷはっ!」
え?と思って水野くんを見ると、お腹を抱えてケラケラと楽しそうに笑っている。
思わず見入る。
あ、こんな風に笑えるんだ、なんて思う。
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