恋の病を治してください!
第15話
「津崎先生、今日仕事終わったらみんなで飲みに行きません?」
「津崎先生ー!今日こそは食事行きましょうよー!」
「津崎先生ー!今夜暇ですか??」
津崎先生が来て一週間経った。
毎日毎日、先生がナースステーションに入ってくると、絡んでくる人たち。
もうすでに日勤の仕事は終わっているにもかかわらず、津崎先生が来るのを待ってたみたい。
あー、ヤダヤダ。
あたしはちゃんと言ったんだよ。
洗いざらい、全て。
最低、最悪な男なんだって。
なのに、誰一人と信じようとしない!!
千恵にいたっては、何で美穂ばっかりー!って何故かキレられるし。
そしてそのまま一週間が過ぎて、言うまでもなく院内の人気者になられた津崎先生。
「すいません、仕事終わりは予定があるので。」
そうやって優しい口調で、誘いをかわす。
ほんと、あたしと接する時以外は、イケメン対応なんだから。
大体、“仕事終わりは予定があるので”って、いつも予定ないじゃない!!!
この一週間、なぜかあたしは津崎先生の家に引きずり込まれて、たった二杯のビールを飲んで家に帰るということを繰り返している。
もう、何がしたいのかさっぱり。
だけど今日は、あたし夜勤だから津崎先生の家には行かなくて済む!!
そう思うと、嬉しくなってくる。
未だかつて、こんなに夜勤するのに燃えた事はないってくらい、頑張ろうって思ってる。
「美穂、今日機嫌良くない?」
「え?そーう?」
少し高めの声を出しながら、日勤終わりの千恵に返事をすると、若干引かれた。
そんな事はどうでもいいんだよ。
とにかく今晩は、津崎先生に会わずに過ごせるんだもん!
こんないい日はない!
「美穂ちゃん、ご機嫌だねー。」
千恵が帰った後、後ろから声がして振り向くと、井田先生がニコニコと楽しそうに笑いながら立っていた。
「そんな事ないですよー。」
適当に返事をして、夜勤の準備に取り掛かる。
救急カートの整理や、回診車の物品チェック、夜中変える点滴の確認、受け持ちの患者さんの情報収集など。
夜勤と言っても、やる事はたくさんあって、結構忙しかったりする。
「機嫌が良いのって、津崎先生が関係してるの?」
ハッとするように井田先生を見ると、いつもと変わらない笑顔。
も、もしかして、あたしが毎晩津崎先生の家に行っていることバレてるんじゃ・・・。
とんでもなく不安になったけれど、ここで動揺すると、ボロがでそうだ。
だから、なるべく動揺した心を隠す。
「な、何でここで津崎先生なんですか?」
少し、声が震えてしまった気がしたけれど、ニコニコと笑う井田先生の顔を見ると、動揺しているのはバレてないなと思う。
「だって、今日美穂ちゃん夜勤でしょ?」
「え?ええ。夜勤ですが・・・それが?」
「津崎先生も今日当直で病院泊まるから、それで嬉しいのかなーって。」
「えぇっ!?」
な、何ですって!?
津崎先生、今日当直なの!?
驚くように津崎先生の方に目をやると、これでもかと意地悪く笑っている。
うわーーーーー!!!!
なんてこった。
そんなの聞いてない。
いや、別に知らなくて良かった。
ああ、一気に夜勤やる気失ったんですけど。
もう帰りたい・・・。
ガーンと落ち込んでいると、後ろからポンポンと頭を叩かれた。
「よろくしな、美穂ちゃん。」
そう言いながら少しバカにしたように笑って、津崎先生はナースステーションから消えて行った。
む、むかつく・・・。
大体、よろしくって何よ。
当直だからって、直接的にそんなに関わる事ないし。
病棟の患者さんが急変したら、先生呼ばなきゃだけど、よっぽどのことがない限り、夜中に先生に連絡したりはしない。
よし、気にせず夜勤しよう。
この話は聞かなかったことにして、途中だった夜勤の準備を再開させる。
「美穂ちゃんって津崎先生と仲良いんだね。」
「そんなわけないです!ほら、井田先生、仕事終わってるなら、早く帰って下さい!!」
「そうだね。お疲れ様。」
「お疲れ様です。」
ふわりと白衣を揺らしながら、井田先生もナースステーションから出て行った。
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