第13話
「だから、一気に飲むなって。」
「大丈夫です。あたし、お酒強いですもん。」
吐き捨てるようにそう言うと、津崎先生は大きくため息を落とす。
本当は、そんなに強くなんてないけれど、今日は飲みたい気分だし。
何もかも、忘れたいから。
お酒を飲んだからといって、彰彦との記憶がなくなるわけじゃないのは分かってる。
それでも、今日だけでも、忘れたいと思うから。
「バーカ。それ以上はやらねぇよ。」
忘れたいと思っていたのに、空になった二本目の缶ビールを、呆れた顔をして津崎先生はあたしから奪い取る。
いくらなんでも、缶ビール二本じゃ足りないんですけど。
缶ビールの代わりと言わんばかりに、麦茶を渡されて、さらに不機嫌になる。
「酔っ払いの介抱なんて、俺したくないから。」
「酔っ払いじゃないし。」
「大人しく、麦茶飲め。」
仕方なく麦茶を受け取ると、満足そうに笑った津崎先生。
多分、ストップかけないと、あたしが永遠にお酒飲み続けるとでも思ったんでしょ。
確かに今日はそんな気分だったけど、やっぱ缶ビール二本は少ないよ。
自分から家に来いと勝手に連れてきて、お酒出して、この対応って一体何なのよ。
なんだか、だんだん腹が立ってきた。
むっとした顔で津崎先生を見ると、文句あんのかと言わんばかりの顔が返ってくる。
「津崎先生は、完璧にいろんな事をこなせて、良いですよね。」
「は?」
今日、先生の事を影から見ていたけれど、患者さんとのコミュニケーションもしっかりしてて、他の先生たちの相談なんかもちゃんと乗ってて、まるで前からいたんじゃないかと錯覚してしまうほど。
出来る人は、何だって出来るんだなと思った。
あたしなんて、まだまだ未熟者で、自信なんてなくて。
でも先生は堂々としてて、あたしとは真逆。
「俺、そんなに完璧に見える?」
急に質問し返されて、驚いたように津崎先生を見ると、少しだけ悲しそうな顔をしていた。
何で、そんな顔・・・。
リビングのダイニングテーブルに置いてあるパソコンに目をやる。
その隣には、散乱した資料がたくさん。
「本当に完璧な人間なんて、この世にいねぇよ。」
みんながみんな、生まれた時から何でも出来る人なんていない。
みんなたくさん努力して、いろんな経験をして、出来るようになる。
この人にも、分からない事はいっぱいあって、その度に資料見て調べたり、勉強してるんだよね。
完璧に見えても、その裏ではかなりの努力が必要だって事、あたしだって分かってたはずなのに。
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