第12話

適当にバラエティ番組を見ながら、笑ったり驚いたり、なかなか楽しい時間を過ごしている。



けれど、ふと考える。



もしも、津崎先生に彼女がいたらって。


そう思うたびに、チクリと小さく胸が痛んで、嫌になる。



ここにあたしが居ていいんだろうか。



別に、あたしは津崎先生の特別な人でもない。


職場と住んでいるマンションが同じってだけの存在。





テレビを見て笑う津崎先生の横顔を見つめる。


まつ毛長いなとか、切れ長な瞳も、笑うと少し下に下がってタレ目になるんだなとか、そんなことをぼんやり考える。


ふいに目が合って、どうした?と優しく聞いてくる。



何でこんなにも津崎先生は、あたしの心に入ってくるんだろう。


今朝、初めて会った人なのに。




その優しい声が、頭に響く。







人に、他人に、自分の弱さを見せるのは好きじゃない。



難なく仕事をこなしているように見られるけれど、実は毎日ビクビクしながら仕事をしている。


何もない事を祈りながら、患者を見ている。


何でもできるわけじゃない。


完璧でもない。


まだまだ分からない事だってたくさんあって、その度に分厚い医学書広げて勉強する時だってある。




彰彦だって、あたしが看護師という不規則な仕事をしているせいで、無理をさせていないか本当はずっと不安だった。



定時に確実に帰れるかどうかなんて分からなくて、帰ってくるのが夜中になる事だってある。


すれ違いになることも多くて、なかなか二人でゆっくり話せる時間もなくて。


彰彦の事、ちゃんと好きだったし、もっと一緒にいる時間を大事にしなきゃって思っていたけれど、あたしにとって仕事も凄く大事だったから。




そんなの、浮気されたって仕方がない。




きっと、悪いのはあたしだ。




全部、彰彦のせいにしてしまったけれど、仕事に追われて彰彦の事をちゃんと考えられなかったあたしが、悪い。






「お前さ、いつもそんな感じなの?」



「・・・どういう意味ですか?」



「いや、言いたい事、溜め込むタイプかなと思っただけ。」






何よ、それ。


そんな事ないし。


どっちかっていうと、言いたい事、言うタイプだし。






「今朝だって、痴漢されてるのに何も言わねぇし。」



「それは、面倒だったから。一駅くらい我慢しようと思っただけで、」



「それにしては、かなり怖がってたじゃん。」






そう言ってふっと意地悪く笑う津崎先生。


だからその顔、ほんとに嫌。




ふいっと視線を外す。


今こんなにドキドキするのは、お酒を飲んでいるせいにしようと思って、手に持っていたビールを一気に飲み干す。






「一気に飲むなよ。酔っ払うぞ。」



「自分から渡しといて、何ですか。」






むすっとふてくされたように、ソファーにうずくまっていると、津崎先生がさりげなく新しいビールをテーブルに置いてくれた。



それを手にして、再び一気に流し込んだ。

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