第11話

いつもの電車、見慣れた道、あたしの住んでいるマンションのエレベーター、今朝も見た自分の家のドア。



あれ?



何で、津崎先生があたしの家、知ってんの?!




もしかして、津崎先生ってば、あたしのストーカー?





「ちげぇーよ。」



「まだ、何も言ってませんけど。」






疑いの目で津崎先生を見ると、ため息をつきながら、鞄から鍵を取り出した。




え、もしかして。





「ここ、俺ん家。」



「えぇー?!」






鍵をチラつかせながら、あたしの右隣の部屋を指差す津崎先生に、思わず大声を出してしまった。





「お前な、昨日からうるせぇんだよ。」



「き、昨日って、もしかして・・・。」



「ああ、全部丸聞こえだったぞ。」






う、嘘でしょー!!!



まさか隣に津崎先生が住んでいただなんて。



しかも、昨日の彰彦とのこと、全部聞かれていただなんて。




最悪だ。


もう、本当に最悪。






「俺ん家、来いよ。」



「結構です。」






すぐに返事をして、鞄から自分の家の鍵を取り出そうとしたら、その手を掴まれて、押し込まれるように、津崎先生の家に連れていかれた。



ガチャリと玄関のドアの鍵をかけられて、逃げるなよと、無言の圧力がのしかかる。






「え、えっと、え?つ、津崎、先生??」



「ほら、早く上がれ。」






動揺しているあたしなんて完全に無視しながら、スタスタと家の中に入って行ってしまう津崎先生の後ろ姿を、呆然と見つめる。



早く上がれと言われても・・・。



けれど、寂しいと思っていたのも、一人でいたくなかったのも事実。


今、一人になると色々考えてしまって、おかしくなりそうだったから。


それに気付いた津崎先生は、やっぱりすごいなと思う。



仕方なく、靴を脱いで家に上がる。




リビングに入ると、間取りは同じだけれど、置いてある家具が違うだけで、全然別の部屋に見える。



津崎先生の部屋は、とてもシンプル。



黒で統一された家具と、必要最低限のものしかない。





「はい、どーぞ。」





少し楽しそうに笑って、冷蔵庫の中に入っていた缶ビールを手に取ると、あたしに差し出した。



仕事で疲れた体、昨日振られたショック、今朝の痴漢のイライラ。


考えただけで、キラリと銀色に光るそれを飲みたくなる。




「いただきます。」





躊躇いなく缶ビールを受け取ると、リビングに置いてあるソファに二人で腰掛けて、乾杯をしてから一気に飲んだ。



ああ、美味しい。


仕事で疲れた後のお酒って、ほんと美味しいんだよね。




津崎先生は冷蔵庫にあるもので、簡単につまみを作ってくれて、なんでも出来る人なんだなと思う。



医者だからそれなりに頭だって良いだろうし、料理も出来るし、イケメンで。


まあ、口は悪いけれど、そんなの大した事じゃないだろうし。


きっと彼女だって、いるよね?



こんな完璧な男に、彼女がいないはずがない。

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