第10話

「おっせぇーよ。」



「知らないわよ!だいたい、一緒に帰るだなんて言ってない!」





もはや、敬語を使うのを忘れるくらいむかついてきた。



何なのよ、こいつは!!


何で、あたしのこと待ってるのよ!!






「いいだろ別に。それにお前、寂しそうな顔してたし。」





何よ、それ。



何で。





「家に、帰りたくないんだろ?」



「そんな事、思ってなんか、」



「面倒くせぇなー。ほら、早くしろよ。」






ぐいっと手を引かれて、そのまま歩き出す津崎先生。



あたしは訳も分からないまま、引きずられるように歩く。



ちょ、ちょっと待って。




何で、あたしと津崎先生が手を繋いで帰ってんの?!



やっぱりこの男、人との距離感おかしいって。



一体、どんな風に生活してきたら、こんな風になるんだか。




けれど、誰にも気付かれないようにしていたつもりだったのに、寂しいと思っていたことや、家に帰りたくないと思っていたことも、全部気付いたのは、凄いなと思った。



人との距離感はおかしいけれど、その分、人の事をよく見ているのかもしれない。




ぎゅっと握られた大きな手に、胸の鼓動が速くなる。




男の人と手を繋ぐなんて、何度もしてきた。



大した事でもない、はずなのに。




未だかつて、男の人と手を繋いで、こんなにもドキドキした事はない。



こんなに胸が鳴るのは、足の長い津崎先生の歩幅で歩いているからだと思ったけれど、いつの間にか、あたしの歩幅に合わせて歩いていて、更にドキドキが増していく。



何よ。



どうせ、いろんな女の子にそうやって優しく接しているんでしょ?



あたしが特別とかじゃないじゃん。



だから一刻も早く、この手を振り払って、ここから離れたいのに。



そう、出来ない自分がいる。




自分でもよく分からない。



最低な男なのに。



あたしの事を変態って呼んでくる男なのにな。




気が付いたら、津崎先生の手を握り返してしまっている。



それに気付いた津崎先生は、振り返って少し驚いた顔をしたけれど、すぐに意地悪く笑った。



ああ、嫌だ。


その顔、本当に嫌だ。





大きく波打つ胸の鼓動に、息苦しくなる。

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