第9話

「つ、疲れたー。」




腕を上げて、背筋を伸ばす。


ずっとパソコンで作業していると、肩が凝るんだよね。


やっと仕事が終わった。



結局定時では帰れず、今日も残業だ。



まあ、こんな事は日常茶飯事だから慣れているけれど。





今日から家に帰っても彰彦は居ないし、千恵と晩御飯でも食べに行こうとも思ったけれど、いつの間にか先に帰ってて居ないし。



小さくため息を落とす。


何だか、急に寂しくなった。



ああ、あたしって一人になったんだなぁと思って。






仕事も終わったのに、ぼんやりとパソコンを眺める。



なんだか、帰りたくないな。



いつもなら、仕事終わったらすぐに帰りたいはずなのに。





「何だよ、もう仕事終わってんじゃん。」



「うわっ!!」






後ろから急に声がしたと思ったら、のしっと肩に腕を置いて、横からあたしの顔を覗く津崎先生。



もう、びっくりさせないでよねー!!!


いきなり現れるんじゃないよ!!







「先生、重いです。どいて下さい。離れて下さい。そして近いです。」



「いいじゃねーか、別に。」



「いや、全然良くないですから!!他の人に見られたらヤバイですって。」






するりと津崎先生の腕からすり抜けると、少し不満そうな顔をする津崎先生。



何だかこの人、人との距離感が近いというか何というか。



どうも絡み辛い。






「仕事終わったんなら、一緒に帰ろうぜ。俺も今終わった所。」



「嫌です。」



「即答かよ。どうせ帰る方向同じだろ?」



「無理です。でわ!」



「あ!!待てよ!」







呼び止める声がしたけれど、そそくさと荷物を取りに行って、更衣室に向かった。



何であたしが津崎先生と一緒に帰らなきゃならないのよ。



ただでさえ、井田先生に下の名前で呼ばれて、他の病棟の看護師に嫌味言われたりするのに、津崎先生と一緒に帰ってる所なんて見られたら、更にエスカレートしそうじゃない。



同じ病棟の人たちはみんないい人ばかりだけど、他の病棟の人たちには、結構言われてるの知ってるし、これ以上敵は増やしたくない。



着替えが終わって、出入り口を出ると、知っている顔がいて、思わずため息を漏らす。



ああ、もう!



何でいるのよ。




一緒に帰らないって言ったのに。

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