大嫌いだ

第8話

看護師というものは、いつも頭の中で自分なりのタイムスケジュールを決めていて、それ通りに動くけれど、なかなか上手くいかないもの。



ナースコールの対応に追われたり、もちろん入院患者が急変したりもする。



そういうのって、なぜか同じ日に重なるんだよね。




今日はなるべく定時で帰りたいと思っていたのに、朝からバタバタとしていて、ああ、定時は無理だと心の中で呟く。




夕方、休憩室でぐったりと椅子に座っていると、机においてあるお菓子を物色しに井田先生がやって来た。



最悪だと思って、あからさまに嫌な顔をする。



そんなあたしなんて御構い無しに、隣に腰掛ける井田先生。






「そんな顔しないでよ、美穂ちゃん。」



「もとからこんな顔ですよー。」





出来れば一緒に居たくない先生、ナンバーワンの井田先生と、休憩室で二人きりなんだから、そりゃ嫌な顔になりますって。



しかも、だいたい急変起こしたり、何かある時は、井田先生の患者が多くて、更に、あたしが受け持っている時なんだよね。


だからきっと、井田先生とあたしは、縁が悪いんだと思う。






「美穂ちゃん、彼氏と別れたんだって?」



「な、何でそんな事、井田先生が知ってるんですか?」



「佐々木さんが言ってたよ。」






千恵のやつー!!!



勝手に人の恋愛事情話さないでよね!


よりによってなんで井田先生に話すのよ!!







「じゃ、僕にもチャンスはあるね。」



「何、言ってるんですか。」



「僕、本気だよ。美穂ちゃんのこと。」







ハッとしたように井田先生を見ると、いつものように優しく微笑んでいた。


今朝、千恵が言っていた言葉を思い出す。





“井田先生って、絶対美穂に気があると思う”





いやいや、どうせからかってるだけでしょ?



そう言って、あたしの反応見て楽しんでるだけでしょ?





「あ、美穂ちゃん、全然信じてないでしょ。」



「だ、だって・・・。」





信じられるわけない。


特に昨日、五年も信じてきた男に裏切られたばかりだし、信じられる方が凄いよ。





「僕は、絶対に裏切ったりなんてしないよ。」





ふわりと頭を撫でられる。


そんな風に優しくされたら、堪えていたものが溢れ出しそうになる。





「も、もう!だから、下の名前で呼ばないでって言ってるじゃないですか!あたし、まだ仕事残ってるんで、失礼します!」






むりやり押さえ込んだ感情を見られたくなくて、逃げるように休憩室から出た。



休憩室を出ると、すぐ近くに津崎先生がいて、きっと今の話聞かれたなと、咄嗟に思った。



だから、何も言うな!と目で訴えて、看護記録を書くため、パソコンに向かった。

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