第7話

「では、申し送りは以上です。あと、今日から新しい先生が来ています。ちょっと待って下さいね。津崎先生ー?」





朝の申し送りが終わる頃、新しくきた先生の紹介をしようと師長が先生に声をかける。




すると、近くの病室にいた先生が、ナースステーションに入ってきた。




その瞬間、ビックリしすぎて、思わず千恵の後ろに隠れた。



え、何で?



何であの男がここにいるの?!






「今日からここで働きます、津崎です。よろしくお願いします。」






真新しい白衣を着て、キラキラの笑顔で挨拶をする目の前の男。



それは、今朝、痴漢から助けてくれた男だった。



けれど、何だろう。



雰囲気が全然違う気がするんだけど。




今朝はあんな王子様スマイルなんてものなかったし、もっと口も悪かったし、最低な奴だったのに。




めちゃくちゃイケメンな津崎先生に、女の看護師達は、みんなうっとりと先生を見つめている。


師長まで目がトロンとなってるじゃん!!





千恵の後ろから、睨むように津崎先生を見ていると、ふいに目があってしまった。



咄嗟にそらす。




気付いて、ない、よね?


今朝は胸まであるこの髪も、結ばずに下ろしたままだったし、もちろんナース服じゃなくて私服だったし。


もはや、気づかないでくれ!!






「あ、今朝のへんた、」



「わー!!!つ、津崎先生!よ、よろしくお願いしますね!!!!」






一瞬で気付かれたー!!


しかもこいつ今何言おうとした!?


へんた、まで言ったら、変態しかないよね!!


みんなに誤解されるような事を、こんな所で言わないでよー!!






「伊藤さん、急にどうしたんですか?」





師長が不思議そうにあたしを見ている。



師長だけじゃなくて、他の人も、あたしがいきなり叫んだからか、驚いたように見ていて、恥ずかしくなった。



そんな中、ふっと意地悪く笑った津崎先生。





この男、分かってやったな。



やっぱり良い人なんかじゃない!!!



最低男だ!!!







「では、今日も一日、頑張りましょう!」






師長がしめるようにそう言うと、みんなは自分の受け持ち患者の所に向かう為、散って行った。


気が付くと千恵もいなくなっている。


あたしも、つられるように歩き出すと、目の前に白衣を来た人が立ちはだかった。



顔なんか上げなくなって誰かすぐ分かる。






「何ですか、津崎先生。」



「まさか、また会うとはね、変態さん。」






また変態って言った!!!



だからあたしは変態なんかじゃないってば!





むっとして顔を上げると、すぐ近くに津崎先生の顔があって驚く。



ち、近いし。



もうちょっとで、キスしちゃいそうだったじゃん!






「これから、よろしくね。」






そう言ってにっこり笑った津崎先生。



くそっ!


なんでこんな男がこんなにイケメンなんだ!!



今朝のように、思わずドキッとしてしまった。





このままこの笑顔を見ていると、ますます津崎先生の思う壺な気がして、押しのけるようにしてその場から離れた。



あんな無駄なイケメンと、今まで会ったことがない。




これから仕事に来ると、毎回いるんだと思うと、ほんと憂鬱だ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る