第6話
「何の話してるの?佐々木さん、美穂ちゃん。」
ひょっこりとあたしの横から顔を出しているこの男は、井田先生。
あたしが働いている病棟の医者。
「わぁー!井田先生、おはようございまーす!」
「佐々木さんは、いつも元気いっぱいだね。」
興奮している千恵に対して、にっこりと笑う井田先生。
その濁りのない笑顔に、あたしの病棟の看護師は弱い。
分かりやすく目がハートになっている千恵を横目に、小さくため息を落とす。
「井田先生。あたしの事を下の名前で呼ばないでって何度言えば分かってくれるんですか?」
むっとしたように言うと、千恵に肩を叩かれた。
その様子を見ていた井田先生は、ははっと声を出して笑う。
「井田先生に下の名前で呼ばれるくらい良いじゃん!むしろ羨ましいっ!先生、あたしも下の名前で呼んで下さいよー!」
「うーん、また今度ね!」
井田先生は楽しそうに笑うと、白衣をなびかせながら、ナースステーションから出て行った。
その後ろ姿を、うっとりと見つめている千恵は無視して、点滴の整理をする。
井田先生は、先生の中でもなかなかイケメンな方だ。
あたしの働く外科病棟の先生で、毎日手術をして、患者の病気を治したり、症状の緩和を行なっている。
外科医ってだけでも、かなりモテているはず。
でも、あたしは全くタイプじゃない。
なぜかあたしにだけ下の名前で呼んで来る井田先生に、むしろ嫌な感情しかない。
他のみんなは、口々に「今日も格好いい〜!」「素敵〜!」と言っているけれど。
「井田先生って、絶対美穂に気があると思う!」
「そんな訳ないでしょ。」
井田先生はきっと、からかっているだけ。
誰に対しても、あんな感じで接しているし。
「ほら、朝の申し送り始まるよ。」
そう言うと、千恵は納得いかないと言いたげな顔をしながら、申し送り場所に向かった。
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