新しい先生

第5話

ドサッと、大量の点滴を台に置くと、一つ一つ整理していく。



その間も、昨日と今日のイライラが湧き出てきて、だんだん意味もなくムカついてくる。





「美穂、今日荒れてるわね。」





さりげなくあたしの隣にやってきたのは、同期の千恵だ。


千恵は、あたしが持ってきた大量の点滴に、手慣れた手付きで、薬剤を詰めていく。


あたしも、同じようにアンプルを折って、注射器で薬剤を吸い、詰める。






「別れた。」



「え?」



「彰彦と別れた。」



「えぇっ!?」






ナースステーションの中だっていうのに、バカみたいに驚いた声を出す千恵に、思わず、アンプルを落としそうになった。






「だって、結構長かったよね?」



「五年も付き合ったのに、浮気相手との間に子供が出来たから、その人と結婚するんだってさ。」



「うわー。最悪だね、それ。」



「あーあ。この五年、なんだったんだろう。」






ほんと、なんだったんだろうな。




あたしは、看護師になって今年で八年目。


もうすぐ、三十歳になる。




ぶっちゃけ、その辺の男よりもお給料も貰っているし、生活には全く困らない。



それでも、女の幸せってやつには、ずっと憧れてきた。



五年付き合って、年齢も年齢だし、そろそろ結婚も考えて仕事してきたのに。




どうしてこんなことになっちゃったんだろうな。






「まあ、そんな最低な男とは別れて良かったじゃん。次だよ次!」







次だなんて、そう簡単に見つかりっこない。



もう若くもないし、そもそも、彰彦と結婚するもんだと思っていたんだから。



あてもなければ、また一から恋愛するのも面倒だ。







「ねぇ、知ってる?この間移動した林先生の代わりに今日から新しい先生が来るらしいよ。」



「へぇ。」



「それもかなりのイケメンらしいよ!」






目を輝かせながらそんなことを言う千恵。



新しく来る先生が、イケメンだからって、別に何かある訳でもないし。




それに今は、当分男はいいや。



幸せにはなりたいけれど、何だかいろいろと面倒。



目の前の仕事をこなしていくことで、精一杯だ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る