第4話
さすがに、これ以上我慢できないと思って、声を出そうとした時だった。
「いたたたたっ!!」
真後ろで聞こえてきた叫び声に驚いて振り返ると、おじさんの右腕をひねり上げている男の人がいた。
「おっさん、いい加減にしろよ。」
「な、何だっ、君はっ!」
「しらばっくれんな。俺、全部見てたんだから。」
ざわつく車内。
あたしは驚いたまま、おじさんと男の人を見つめた。
「は、離せ!」
気が付いたら駅に着いて、ドアが開いたと同士に、おじさんは男の人の手を振り払って逃げて行った。
流されるように、電車から降りる。
なんだか頭がついていかない。
えっと、あたし、後ろにいたおじさんに足触られてて、そしたら男の人が助けてくれて・・・。
そういえば、助けてくれた男の人も見当たらない。
ああ、もう面倒臭いな。
とりあえず、仕事に行こう。
痴漢のおじさんはもうどっか行ったわけだし。
そう思って改札に向かって歩き出すと、急に誰かに腕を掴まれた。
今度は何?!と振り返ると、さっきおじさんの腕をひねり上げていた男の人が目の前にいた。
少しだけ、ムッとした顔をしているこの男の人は、よく見るとかなりのイケメンだ。
こ、これは、神様がくれた運命の出会いとか言うやつなのでは?!
うん、顔は超タイプ。
切れ長な瞳に、短めの黒髪。
背も高くて、まくっているシャツから見える腕には、ほどよく筋肉もついてて男らしくて完璧。
見ず知らずのあたしを痴漢から助けてくれたんだから、きっと優しくて素敵な人なはず!
「お前なぁ、痴漢されてんだったら、叫ぶなり何なりしろよ。」
「え?」
あ、あれ?
何か、違う?
あたしが想像していたのは、もっとこう、甘い展開。
大丈夫でしたか?とか、怖かったよね?とか、そんな事を言ってくれるんだと思ったんだけど。
何だろう。
この人、怒ってる?
「あー朝からマジでありえない。しかもおっさん、逃げたし。」
掴まれていた腕が離される。
イラついたようにポリポリと頭を掻くしぐさも、やたら格好良くて、ドキッとする。
けれど。
「痴漢されて何も言わないとか、お前、変態なの?」
「はっ?!」
この男、さっきから何なの?
痴漢されてた人に、変態なの?だなんて、普通聞く?!
やっぱり、運命の出会いだなんて、そんなものないんだね。
神様なんていないんだ。
「何なのよ!最低っ!」
そう叫ぶと、あたしは男に背を向けて、早足でその場を離れた。
もう!
ちょっと顔が良いからって、無駄にドキッとしてしまったじゃない。
あんな最低な奴、顔がいくら良くても無理。
もう一生会う事も、話す事もないだろうし、今日起きたことは全部記憶から消してやる。
そして、当分仕事に生きてやるんだから!!!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます