第12話

咄嗟にドアの方を見ると、その人も驚いたように私を見ていた。




癖っ毛のふわふわした髪の毛は、夕日に照らされて黄金色に輝く。


走ってきたからか、少し上がった息遣いが聞こえてきて、息を飲む。






「何、してんの?」





ほんのり香る、爽やかなシトラスの香り。


ゆっくりと近づいてくる彼に何故か目が離せなくなった。



茜色に染まった教室に、黄金色に輝く姿が、何だかとても綺麗だったから。







「・・・か、神崎、くん。」






やっと出た彼の名前。



シトラスの香りが強くなる。


気がついたら神崎くんは私の目の前にいた。







「ここってさ、佐伯の席だよな。」








あっ。



ああ!!!!






や、やばい。



私が佐伯くんの席に座ってる所、見られてしまった。



よりによって、神崎くんに・・・。







「あ、えっと、これは、間違えたんだよ!」



「は?普通自分の席、間違えねぇよ。」



「いや、私、ちょっとぼーっとしててさ。前と後ろ間違えたんだって。」







私は机に手をついて、勢いよく立ち上がって、自分の机に置いてあった鞄を手にとった。






「神崎くんはさ、どうしたの?こんな時間に、教室に来て。」




紛らわすように聞くと、彼は自分の机の中からスマホを取り出した。






「これ、忘れたから取りに来た。」






ああ、スマホね。


いつも授業中にいじるために、机の中に入れていたことを思い出す。







「そ、そっか。じゃあ私、帰るね。また月曜!」






私は神崎くんから逃げるように背を向けて、ドアの方へ向かった。




ドアに手をかけようとした瞬間。


ぐいっと左腕を掴まれて、思わず振り返る。



ドンっとドアに背中が触れて、私を挟むようにして神崎くんの両手がドアに付く。




一瞬の出来事だったから、何が起きたのか理解出来ない。






神崎くんはいつもの無表情な顔で私を見つめる。






な、何これ。




何が起こってるの?

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