第12話

「だって春日井さんって長いじゃん!春日さんの方が呼びやすいからね!」



「井が付くだけだろ?ほんとお前変わってるよな。」



「本当は下の名前で呼びたいんだけどさ、春日さん教えてくれないんだもん。」







呼ばなくて結構です。




下の名前、教える気ないですから。






それより一宮くんの言う通り、井くらい付けなさいよ。




もはや違う人だからね。




私は春日じゃなくて、春日井なんだから。









「そういえば俺も下の名前知らないな。春日井さん、教えてよ。」



「ちょっと!!俺が聞いてるのー!春日さん、教えてよー!!」






あーうるさい。



こんだけ絡まれると無表情でいるのが辛くなってくる。



思わず感情が顔に出てしまいそうだ。



私は一呼吸置いて、眼鏡を人差し指でくいっと上げる。






落ち着け、私。





ここで、感情を表に出してしまうと、今まで作り上げてきたものが壊れてしまう。


それはまずい。


そんなことはさせない。





私は無表情のまま、とにかく黙った。




2人はしつこく名前を聞いてきたけれど、完全に無視。






しばらくすると先生がやって来て、一宮くんは諦めて前を向く。




バカ犬は先生が話を始めても、私に名前を聞いてくるから、静かにしろと怒られてまた落ち込んでいる。




本体に、喜怒哀楽の激しい人。





そんなに感情を表に出していて、疲れないのかな。




私には到底無理だとつくづく思う。

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