第6話

「コタロウやめなよー。春日井さんに話しかけても無駄だってー。」






私の目の前に座る豊田さんが犬男に声をかける。


けれど、私の髪の毛を離すことはなく、むっとした顔のまま私を見つめ続ける犬男。



・・・顔近いんですけど。


いつまでこの体勢でいればいいんですか。



寝癖だらけの彼の髪の毛が、さっきから私の鼻をくすぐってムズムズする。






「だって、春日さん無視するんだもん!!せっかく同じ学級委員なのにさ!」





なりたくてなったわけじゃないし。




だから何度も言うけれど、私は春日井です。


犬男は井戸の井は言えないんですか?






「コタロウ無駄だって。春日井さん、いつも無表情で何聞いても答えてくれないし。なんせ勉強が友達らしいからねー。」



「勉強が友達?」






キョトンとした顔をする犬男。




そうだよ、私は勉強が友達ですよ。





高校は友達を作ったり、彼氏彼女を作る場所じゃない。




勉強をするところなんです。





サルや犬のあなた達には分からないだろうけど、私は普通の人間だから、勉強をするんだよ。




だから友達なんてものはいらない。



ましてや彼氏なんて、もっともっといらない!!








「えー!!!!春日さん、すっげー!!!どうやったら勉強と友達になれんのー???」





突然バカみたいにでかい声を出して叫んだ犬男。


クラスのみんなが一斉に私と犬男を見る。






「こら犬山!!!まだ委員会決めの最中だぞ!静かにしろ!!!」



「あっはははー!コタロウ怒られてやんのー!」



「豊田も静かにしろ!」








先生に怒られた犬山くんは、まるで本当に飼い主に怒られたように体をビクッとさせて、私の髪の毛を離した。



やっと身動きが取れると思って、机に置いてあった眼鏡を咄嗟にかける。



チラリと後ろを見ると、犬山くんはしゅんと小さくなって落ち込んでいる。


先生に怒られたぐらいで落ち込むなんて、男としてどうなのよ。


本当に犬みたいだよね。




反対に、前を見るとケラケラとお腹を抱えながら楽しそうに笑う豊田さん。


こっちは全く気にしてない様子ね。


少しぐらい気にしなさいよ。







ああもう、何なのよ。






だいたい犬山くん、どうしたら勉強と友達になれるの?って私をバカにしてんの?




アホにもほどがある。


本当に勉強と友達なわけがないでしょうが。





私は一生目立たず、地味に過ごしていくって決めてるんだから、喋りかけないでよね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る