第27・5話 プリとアロハ

 真冬と一緒に買った指輪は、真冬が持つことになった。大事そうにずっと抱えながら、ゲームセンターの一角に入っていく。


 今回はクレーンゲームが目的ではない。端の方に4機ほど並んでいる、箱型の機械でプリクラを撮るためにやってきたのだ。


「二人で撮るのって久しぶりだね」

「うん。今のプリクラって、どんな感じなんだろ」

「案外、勝手は変わってないんじゃないかな」


 真冬と一緒に、それぞれの箱に写ったモデルのような人を見比べてみても、あまり違いが分からない。とりあえず、一番近い機械にお金を入れて入る。


 最初に流れる案内のボイスを適当に聞き流しながら、2人で持った荷物を棚に置く。真冬がこちらに顔を寄せてくるから、真冬の髪に指を通して、軽く整えてあげる。


「可愛いね、それ」

「今は二人きりだし」


 真冬がもっと寄ってくる。さっきの余韻も残っているから、真冬の甘えてくる素振りの破壊力が強い。


 このまま抱きしめたいけど、プリの撮影が始まりそうだから、真冬の肩を叩いてそれを知らせる。


「チュープリ、期待してるね」

「な、何を言ってるの?」


 正直、私はこういう写真のポーズはあまり知らない。真冬が事前にネットで調べに調べを重ねていたようなので、勢いで真似してみる。


 顔の横に、ハートの半分を添えるポーズ。


 逆さのピースを前に突き出すポーズ。


 顎下に、ピースをくっつけるポーズ。


 両頬を、人差し指と中指をくっつけて突くポー

 ズ。


 考える人のポーズ。




 最後は、少し期待して真冬の方を見る。写真を撮るにつれて赤く染まっていく真冬が面白かったから、撮影中の私はずっと笑っていた。


 真冬先生の最後のポーズに期待して、最後の写真に備えた。






 最後の写真でチューをするのは、さすがに恥ずかしかったのだろう。締めは、真冬の急なハグで決まった。


 ハグは嬉しいけれど、真冬の顔が私の胸のあたりに埋もれてしまってよく見えない。そこだけが残念なポイントである。


「最後の真冬の顔、写ってほしかったな」


 真冬が細めた目を据えて、私の方をじっと見ながら言う。


「前の写真は私が泣いてたから仕方ないけど、今回は100パーセント、ゆうちゃんがからかったせいだからね」

「ごめんごめん」


 横で文字もデ素材もガンガンに楽しんで使ってる”ポーズの先生”は、なんだかんだ楽しかったみたいだ。もう私のことなんか気にせずに、写真に書き込んだデコレーションの見直しなんかもしている。


「私のことなんか見てないで、ゆうちゃんもやってみて!」


 私はこういうものに関しては、あまり積極的に文字入れなどをしたことがない。先生にご指摘をしていただいて、ひぃひぃ言いながらなんとかデザインを終わらせることができた。





「真冬。これを、スマホに貼りたいって思ったりする?」

「……いや、自分が自分じゃないみたいで恥ずかしいかも」


 お互いに思うことは一緒だったようで、このプリは表に出ないことは、とりあえず決定したのであった。





 ―――――――――――――――――





 バスに乗って帰る前に、どうしても気になっていた服を買いに行ってきた。


「ゆうちゃん、それはちょっとどうなんだろう」

「何で?真冬めちゃくちゃ笑ってたじゃん」

「いや、さすがに冷静になってきて」


 真冬が、私の持っている新しい袋の口を、人差し指で引っ張って覗いてくる。


 最初に訪れた時点ですぐに気になっていたけれど、さすがにおふざけが過ぎるかもしれないと思って買わなかったのだ。


 でも、この服は1着500円のセールで売られていた。しかも、夏服はあと2週間もすればすぐに並ばなくなってしまう。


 今日でほぼ用事ややりたいことは済ませてしまったから、また来るのはもうしばらく後になるだろう。となると、買うチャンスは今日しかなくなってしまう。


「今日しか買う機会がないし。案外、着てみたら楽しいかもしれないよ」

「でもゆうちゃん、赤と青のアロハシャツなんていつ着るの?」

「二人でさ、家で着ようよ。アイスとか食べながら」

「……見切り発車したんだ」


 真冬が苦笑いする。でも合わせて1000円で、なかなか体験できないような思い出を作れるのなら、お安いものではないだろうか。


「真冬が良いなら、これきて祭りとか行っても全然いいけどね」

「何それ、浴衣とかじゃないんだ」

「巻き添えみたいなものだからね」


 きっと、これで祭りに出るのも面白いだろう。このあたりだと、花火大会も合わせれば最低2回は祭りがあるし。1回目は浴衣で、2回目はこのアロハシャツで。


「家で着てみてから考えようか」

「今日着るの?」

「今日は、雰囲気が壊れそうだからやらないかな」

「そういうのは、ちゃんとしてくれるよね」


 真冬が腕にしがみついて見上げてくる。もうそろそろ、コインロッカーの荷物を取りに行かないといけないから、あと1時間くらいは触れ合えなくなってしまうだろう。


 立ち止まって、真冬の左手の小指あたりをなぞる。真冬の照れくさい表情が見えて、視線が絡まる。お互いに待ちきれない気持ちになっているのが分かる。


 また、モール内のコインロッカーに戻るまで、いつもの半分くらいは、スピードを落として歩いたと思う。30分に一度くらいしか通らないバスの時間にも、まだ余裕があるから。

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