第24話 サプライズ
あれから学校でも、休日と変わらない私のまま過ごすことができるようになった。
思ったよりも周りの人が優しいのにびっくりした。私が男子生徒に話しかけられて、踏み込んだことを言われた時にはみんながすっ飛んできて、ものすごく守られている気がする。
ゆうちゃんに至っては、私の下駄箱に入っていた便箋を毎日回収するのが日課となった。それらに”バツ印”をつけるために用意した太字の油性ペンが、胸ポケットに刺さっていて、少し不格好に膨らんだそれは、抱きしめられるときに少し邪魔だった。
そのことを伝えると、それからは手紙を持ってどこかにふらっと出かけるようになって、下駄箱に入る手紙の枚数とか、男子に話しかけられる回数がぐんと減った。
前にカフェを訪れた時の店長さんを少し思い出した。せめて可哀そうなことをしていなけらばいいけど。
最近、2人で出来ることがたくさん増えた気がする。結局、お弁当の食べさせあいっこは、次の日には手を付けてしまった。
残念だったのは、ゆうちゃんに食べさせたいと思ったのに、それには応じてくれないところ。
私にはパンをちぎって食べさせてくれるのに。
よく考えたら、食器を経由せずに食べさせられる私の方がよっぽど恥ずかしい。小鳥が餌付けされているような絵面に見えないかなんて、羞恥の感情で首まで真っ赤になっていた。
それをゆうちゃんに抗議したら”真冬のそういうところを見るのが楽しい”だとか”私はかっこいいキャラだから”とか、良く分からないことを言われて誤魔化される。
本当に、ゆうちゃんは意地悪だと思う。私の心を、嫌な気持ちにさせない程度に、羞恥と幸福で満たしてくる、悪魔みたいな人。
一生、この魅力の前には逆らうことなんてできないんだろうな、と思った。
そんな私の好きな人が、土曜日には素敵な1日をくれるそうだ。そのあとは、私の家でお泊りして。いったい、どんなことをしてくれるんだろう。
私の家は、ゆうちゃんの家に比べると娯楽が少ない。1人暮らしの家なのに、テレビがないのは自分でも珍しいんじゃないかと思う。
ゲームとかも携帯機でやったことがあるくらいだし、スマートフォンで映画とか動画も見られるからあまり必要性を感じなかった。
何より、部屋にそんなスペースがなかなかないのが1番の理由だと思う。あの部屋にテレビ台とかを置いたら、本格的にごちゃごちゃしそうだなと思った。
でも、前に一緒に見た映画の時間は良かった。映画の内容なんて、半分くらいしか覚えてないけれど。
私も家にああいう娯楽があったらゆうちゃんと、世間がいう”チル”な時間を過ごせるのだろうか。
ゆうちゃんと一緒にいる時間を考えると、それが発展して頭が支配されて、1人で暴れてしまう。ベッドの枕が皺になって泣いているようなのを、ちょっぴりかわいそうに思った。
そんなことばっかり考えるのをやめて、短い動画の投稿サイトを気分転換ついでに眺めていたら、お部屋紹介の動画が流れてくる。その中で、これだ!とピンときた商品が1つあった。
「プロジェクターかぁ」
私の部屋の壁に、動画とかを映して、暗めの部屋の中で見るのはどうだろう?これなら、私の部屋でもできるかもしれない。
何より、暗い部屋でいるのが雰囲気が出るだろう。自然に触れあったり、求めたりすることができそうだと思う。
……今から胸がどきどきしてきた自分の破廉恥さ加減に血が上るから首をブンブンと振って、通販でプロジェクターの値段を調べ始めた。
――――――――――――――――――
どこを探してもそうだから、かなり度肝を抜かれた。
「プロジェクターって、こんなに高いんだ!」
安くても2万円で、それなりのものだと5万円以上するのがざらにある。こんなにお高い機械を買うのであれば、禁忌の”お小遣い数か月前借り”をしなければ、とてもじゃないけれど難しいだろう。
今からバイトをするのなんて到底無理だ。今後は色々なことをするために、ゆうちゃんのようにバイトをすることを検討しなければ。
そんなことを思いながらも、どうにかならないかと商品のページを行ったり来たりしていたら、もう1つ、気になる商品を見つけた。
どうやら、その商品だとだいたい1万円ぐらいで買えるらしい。同じくらいの値段の商品も豊富で、これなら比較して吟味もして選びやすそうだ。
何より、最近はその景色を2人で見る機会はなかった。最後に一緒に見たのは2年前の中学時代、部活に通っていたころだと思う。
午後7時くらいの帰り道に、見上げた景色は綺麗で、名前もわからない並びに名前を付けて、2人だけで笑いあっていた。
もう梅雨の時期だし、曇り空がかかってしまえば見れない景色を、お家でゆっくり見られるなら。想像しただけでわくわくする。
今日は水曜日。ぎりぎり今注文すれば、土曜日の昼には間に合ってくれるだろう。本当に急がないと、善が逃げてしまうから、一生懸命に商品ページを漁って。
その日のゆうちゃんとの通話に何とか間に合わせることができた。けれど、私の嬉しい気持ちは隠せないようで、ずっと”何かいいことでもあったの”なんて聞かれていた。
そのたびに不思議そうに首をかしげるゆうちゃんを見るのが楽しい。いったい、どんな反応をしてくれるんだろうか。想像するだけで楽しくなってきた。
「またにやにやしてる。教えてくれないの?」
少し拗ねるゆうちゃん。可愛いとちょっとの罪悪感が湧きでるけど、サプライズにそういうものはつきものだ。
「そのうち分かるよ。楽しみにしてて」
そう言うと、納得した表情の素敵な人が映る。
明日の朝には早起きして、コンビニで支払いをしないと。いつもより2個だけ、スマホのアラームを増やして設定しておいた。
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