第6話
靄の中から鎌のようなものが伸びて来て、素早く悠斗の首を狙ってくる。
絶体絶命とは、このことか。目を瞑り、悠斗は覚悟を決めた。もう少し陽狐に優しくしてあげれば良かったとは……思わない。
「何してんのさ?」
ちらりと見上げると、ふわっと体が何かに持ち上げられた。目をそっと開けると、さっきまでいたところには、鎌が行き場を失ったかのように地面に刺さっていた。どうやら難を逃れることができたようだ。
「陽狐」
「なぁに驚いてんだよ」
陽狐は、にやっと歯を見せて笑った。どうしてこのあやかしが自分を守ってくれるような奴なのか、悠斗は未だに理解できなかった。
「お前、俺と契約をしてないだろ」
「そうかな?」
とぼけたように言う陽狐を問い詰めようしたが、やめた。今は目の前の怪異を解決しなければ、自分の命でさえ危ない。それに、いつまでも姫のように抱き上げられていたい気はない。半ば無理やり陽狐の腕から降りて、靄を睨みつけた。
「何か方法はあるのか?」
陽狐は、肩に手を置いて悠斗に問う。悠斗は黙ったまま首を振った。これまでは、祖父母がもたせてくれていた呪符とか形代とかで逃れていた。だが、今はそれがない。絶体絶命のこの状況に、背中に冷たい汗が流れるのを悠斗は感じた。
「そう思いつめるなよ、何のためにこのオレがいると思ってんの?」
「……遊びがいあるやつだから?」
「この期に及んで、その反応かよ」
肩をすくめて、陽狐は悠斗の一歩前を出る。目線を上げると、陽狐の横顔がいつも通り笑っていた。
こんな状態で、なぜ笑っていられる。
悠斗は黙って陽狐が何をするかを見ることにした。陽狐は一歩ずつ相手に近づいていく。
「おまえさぁ、オレがいると知っての狼藉か?」
聞いたことが無いほどの声を低くしていった陽狐は、ぱちんと指音をはっきりと鳴らした。次の瞬間には、渦巻いていた靄がぴたりと止まった。
――マサカ
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