第4話

 偶然だ。

 そんな言葉で片付けたくなったが、幾度となく直面してきた怪異とあまりにも似すぎている。


「ねぇねぇ、悠斗、気づいてる?」

「……うるさい」


 陽狐が言わんことはわかっている。悠斗は立ち止って耳をすますと、足音が一つだけなのがはっきりとわかった。風の音さえしない。暑いのに、何故か悠斗の背筋に

少しだけ寒気が走った。


――キタキタ、ヒトノコ


 金属音が混じったかのような音が耳に入ってくる。明らかに人間の声ではない。


「持ってきた?」


 こそっと耳元で陽狐が問うてきた。何を、と聞くまでもない。

 ポケットの中にあるはずのお守りを探すが、ポケットの中は空だった。舌打ちをしながら、目だけでちらりと辺りを見渡す。ここではっきりと反応してはいけない。相手を調子づかせるだけだ。


――メンドクサイナ。キツネガイル


 陽狐に注意が向いたのを良いことに、悠斗は神社に向かって走り出す。走れば五分もかからないはずだ。


――ニゲタ


 ぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺた。


 後ろから、到底足音とは思えない音がすぐ後ろまで追ってきた。

 振り向くな。振り向けば捕まる。

 幼少期にしていた鬼ごっこを想起させる状態だが、これはそんなかわいいものではない。


「足速くなったなぁ、悠斗」


 こんな時に余裕綽々な声で褒める陽狐に、悠斗は眉をひそめた。


「こんな雑魚でさえ、前はすぐに追いつかれたってのに」


 いつの時の話だ。


「泣きだしたこともあったよな」


 うるさい。黙れ。


 陽狐を怒鳴りつけたくなるが、ぐっと言葉を飲み込む。代わりに少しずつ息が上がってきた。


「そう言えば、あの時はおもらしも」

「うるせぇっ」


 あっと気づいたが、既に後の祭り。陽狐の言葉に思わず反応してしまった。


 ――ミエルラシイナ

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