第2話

「でもさぁ、一緒にいられるのは今日が最後かもしれないだろ?」


 勉強しているのもお構いなしに、陽狐は悠斗の肩を揺らしてくる。おかげで勉強に集中もできやしない。


 外は夏真っただ中というのを体現しているかのような日差し。湿度も相まって、クーラーをかけないと室内でさえ熱中症になってもおかしくない。

 陽狐は、あやかしのクセに、昼も夜もずっと悠斗の近くにいる。きりっとした釣り目はいつも人をからかっているような表情を宿していた。


「正確には、あと十四時間くらいだ」

「だったらさぁ、最後の夏を一緒に遊ぼーよ」

「断る」

「もう二度と遊べないかもしれないだろ。そしたら、寂しいだろ」

「別に」

「オレは寂しいんだけどなぁ」

「だから?」

「今日だけだからさぁ」


 口を尖らした陽狐の顔は、小さい子どもが駄々を捏ねているみたいにしか見えない。こうなった陽狐は折れない。自分の要望が通るまで四六時中このままなのは、経験上わかっている。そして、悠斗自身がこんな環境で勉強に集中できないのも。

 頭の中で、この状態を続けさせるか否かを天秤にかけると、あっという間に陽狐を静かにさせる。悠斗は、ため息を吐きながら持っていたシャーペンを机に叩きつけるように置いた。


「静かにしろよ。集中できないだろ」

「そんな態度とって良いのか?」

「は?」


 片眉を上げて煽るような言い方をした陽狐を睨みつける。悠斗が怒っているのを面白い物でも見るかのように陽狐は見ていた。


「オレがいないとなぁんもできないだろ、悠斗は」

「そんなことないだろ」

「いいや、あるね。これまでの怪異事件を解決してきたのは殆どオレなんだから」

「あれは」


 祖父母の命令により、そうやって解決するしかなかったから。

 噛みつくように反論したくなるのをぐっとこらえる。目の前にいるあやかしに言ったところで無意味だ。気分屋でわがままなコイツにそんなことは関係ない。


 こつん。


 窓に何かがぶつかった音がした。それも一回や二回じゃない。

 レースのカーテンをめくると、見慣れた鳥型の式神が窓にぶつかっていた。薄く窓を開けると、すぐさま部屋の中に入ってきた。くるくるっと宙を舞った式神は、ポンと音を立てて白い短冊になる。


 達筆な筆字で書かれた短冊を読んだ時、悠斗は思わず口をきゅっと一文字に結んだ。


「ほら見ろ。ばあちゃんも、オレのことをよーくわかってくれてるじゃん」

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